短編1
□卒業
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あたしと日番谷君はクラス会の会場となる駅前カフェに向かっていた。
幹事である阿散井君、朽木さんは、もうとっくの昔に着いていると連絡があった。
急がなくっちゃ。…でも、それにしても………
「日番谷君、はやいよ!早過ぎだよ〜!」
さっきからあたしは小走りだ。
校門を出てからずっと走っているから、なんかだんだん息がきれてきた。
堪らず叫んだあたしを日番谷君は振り返ってジロリと見た。
え。なんかすっごく不機嫌な顔をしてらっしゃるんですけど。
一瞬怯んだけど、表情には出さずに彼の隣りに並んで歩き出す。
やっと普通の速度だ。あたしはほう、と息をついた。
隣りを歩く幼馴染みは黙ったままの仏頂面、制服は前が全開のボタンなし。
校内で揉みくちゃにされていた姿を思い出して、つい噴出した。
完璧な思い出し笑い。
「急に笑い出すな。」
「だって、あはは、日番谷君、ボタン全部取られて、頭もグシャグシャなんだもん。」
ちぇ、と小さく舌打ちして手櫛で髪を整えてる。
「そういうお前こそ、ボタンはどうしたんだよ。」
「あ?…ああ、実はあたしも取られて…」
「全部かよ!ブ、ブラウスの第一ボタンはどうした?」
「あ…はは、それも知らないうちになくなっちゃった。えへ。」
「笑って誤魔化すな!もうちょっとで下……その……、だから、……」
ふいに赤くなって口籠る日番谷君。
「なあに?変なの?」
「お前なあ…。少しは自分の身を守ろうとか思えよな。」
「ボタン取られたこと?確かにちょっと怖かったかな。…だから社会科資料室に逃げ込んじゃった。」
あたしも日番谷君のこと言えない。下級生達にボタンをあげるのはよかったんだけど、はずすのに手間取っているうちに強引に引きちぎられて、あれよあれよという間に全てのボタンを取られたのだ。最後に胸につけてた白いコサージュを取られて、あたしは悲鳴をあげて逃げたのだ。
胸につけた花をとるということは胸に触るということで、彼等の行いのあまりの荒っぽさに怖くなったのだ。
それからはずっと二階にある社会科資料室の窓から皆を見てたという訳だ。
「………藍染と何話してたんだ………?」
「別に……いろんなことだよ。」
「…告白、したのか?」
驚いて日番谷君を見た。目があうと彼は気まずそうに横を向いた。
「いや……、お前、ずっと藍染のこと……。」
「藍染先生には随分前にフられました。」
「えっ…。」
「二年くらい前だったかなあ?見事に玉砕したのは。」
「…そう…か、俺、何にも知らなくて…。」
「気にしないでよ。…あのね藍染先生が言うには、あたしは恋と憧れを勘違いしてるんだって。時間がたてば、きっと解るって。それから藍染先生は、あたしの良き相談相手なの。」
そして気が付いた。日番谷君への想い。
「じゃあ、今はもう、あいつのこと………」
「いい相談相手って言ったでしょ?先生が言ったとおりあたしのは恋愛じゃなかった、ただの憧れ。それがわかったの。」
日番谷君が急に立ち止まったから、あたしは彼よりも二、三歩歩いたところで振り返り彼を見た。
「どうしたの?」
「………雛森、俺、お前のことが好きだ。」
時が止まった