短編1

□暗示
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木陰に落ち着いてあたしはお弁当を広げた。
「っじゃーん!」

自信たっぷりにフタを開けた。どうだ!、と言わんばかりに。


「すげーな。お前何時に起きたんだ?これ。」

「四時頃かなあ。えへへ、すごいでしょ?気合い入ってるんだから残さないでね。」

「念が入ってそうだな。」


あ、なに?不気味そうに。
ちょっと日番谷君を睨み付けて。
でも、ある意味当たってるかも。美味しいって言ってもらえるかなとか、考えながら作ってたし。


「おにぎりは三種類あるんだよ。こっちから鮭、昆布、おかかだよ。」


ふーん、なんて言いながら日番谷君は鮭を、あたしは昆布を取った。

「うーん、美味しい!」

「ああ、旨いな。」

やった!旨いって言ってくれた。
その一言ですっごく嬉しくなる。朝早くから頑張った甲斐がありました。


「えへへー。」

「なんだよ。その笑いは。」

「んー?幸せだなあって思って。大好きな場所で大好きな人と美味しいお弁当。すっごく幸せ。」


あたしの言葉に日番谷君は驚いた顔をした。そして何故だか顔が紅い?


「あのなあ、そういうことは……。」

「なあに?」

「………なんでもねぇ…。」

はあ、ってため息一つついて再び食べ始めた日番谷君。


「なに?ハッキリ言ってよ。気になるよ。」
「別にいい。………お前ほっぺたに米粒ついてるぞ。」

「え、どこ?ねぇ、なにを言おうとしたの?教えてよ。」

頬に付いているであろう米粒を探りながら日番谷君に食い下がった。

すると彼の手があたしの頬に延びてきて、取ってくれるんだと思って少しだけ頬を向けた。日番谷君が取りやすい様に。


彼の手が頬にかかったら、ついで顔も近付いてきて………。


頬に触れた軽い柔らかさ。
それは一瞬で、
日番谷君の顔が至近距離にきたと思えば、今度は唇に熱い柔らかさを感じた。


それはすぐに離され、目の前にあるのは翡翠の瞳だけ。
いつも綺麗な色だなあって思ってたけど、こんな前髪が触れ合う近さで見たことはなかった。

彼のこんなに艶のある瞳をみたことない。

日番谷君はもう一度あたしの頬に唇をあてて、ゆっくりと身体を離した。




えー………。
今の、なに?
日番谷君はあたしのほっぺたに付いてたご飯粒をとってくれたんだよね?

あれはキスではなくて、ただ単にご飯粒をとってくれただけ。


じゃあ、その後の唇のは、なんだろう?

やっぱりご飯粒が付いてたとか。唇にも。

でもでも、あんな取り方する?普通。


昆布のおにぎりを両手で持ったまま固まってしまった。


日番谷君はそっぽ向いて麦茶を飲んでる。
表情はわからないけど、見えてる耳は真っ赤だ。


「……あの……。日番谷君…………。」


声をかけてみたけど頭がグルグルしてて何が言いたいのか自分でもわからない。

でも、あたしが声を出したことで日番谷君はこっちを向いてくれた

予想通りこれでもか、ってくらいに真っ赤。

「なんだよ。」

「………あの……。今の……って、ご飯粒を……とってくれただけ……なんだよね?」


単刀直入に、キスしたよね。とは聞けなかった。
だってだって!もしかしたら日番谷君的にはああいう米粒の取り方するのかもしれないし!


彼にとっては人の顔に付いた米粒をとる時はいつもああするのかもしれないし!



って、
……………ないよね。
それはないわ。普通。常識的にそんな取り方する?恋人でもないのに、ありえないだろう。


あたしが両手におにぎりをもったまま、下を向いてうんうん考えてたら、「はあー」という日番谷君の大きなため息が聞こえた。


「お前だけだからな。」

「ふぇ?」

「…だから、お前だけにしか、あんな取り方しねぇって言ってんだ!」

「はあ…………。」



よく、わからない。

日番谷君はあたし以外の人には唇を寄せないということ?と、言うことは…あたしにはするということで…。
それは、どういう意味が含まれているんだろう?

「やっぱりきちんとハッキリ言わなきゃお前には伝わらないか…」

またもや下を向いて思考中のあたしに呆れた声。


「う……。」


違うよ。
あたしだって何となく解ってる。日番谷君のしたことの意味。

ただ言葉にして明確にしてほしい。
じゃないとどんな態度をとっていいのかもわからない。



日番谷君が飲んでいた湯呑みを置いた。


「お前に口付けたい。雛森にだけ口付けたい。」




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