短編1

□心配性な彼
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十番隊執務室

予定より戻ってくるのが遅くなり日番谷は今日中に仕上げなければならない書類を急いで書いていた。
次々と順調に片付いていく。この調子ならすぐに終わるだろう。

先の見通しがたったところで筆を置き、うーんと伸びた。椅子の背もたれ部分がギッときしんだ。
そこへ戻ってきたのは夕方から姿が見えなかった副官。


「あら、隊長。まだいたんですか?」
「何、今頃戻ってきやがった。てめぇの分の仕事はきっちり残しておくからな。」
「あはは、は〜い。」


渇いた笑いと返事をして自分の机をゴソゴソしている。
どうやら忘れ物を取りにきただけらしい。
目当てのものを探り当てるとまた戸口へと向かった。
仕事をする気などさらさらなさそうだ。
普通上司が残業していたら、嘘でも「手伝いましょうか」の一言が出るもんじゃないのか?たとえ日番谷がその申し出を断るだろうとわかっていても一応声をかけてみたりしないだろうか、普通は。

いや、この副官に普通を当てはめるのはやめておこう。今更だ。
松本はサボり癖さえなければ優秀な人間だ。それに今日は一番隊から戻る途中で雛森に会い、話こんでしまったから己の仕事が遅れたのだ。
残業しなければならなくなったのは自分自身に責任がある。
だから文句も言わず作業するのだ。



そういえば雛森はあの後どうしたのだろう。隊へ戻って報告書とかを書かなければならなかったのではないか?だとしたらあんなところで引き止めて悪かったな。きっと疲れていただろうに。

ジッと一点を見つめて動かなくなった日番谷に乱菊が話しかけた。


「そうだ。隊長また雛森とやりあったでしょう?だめですよ、あんまり苛めちゃ。いくら気になるからってねちねち言われたら雛森が可哀相ですよ。」


ねちねち……。


「俺はそんなにしつこくない。ちょっと注意しただけだ。…なんでお前が知ってんだ?」
「派手にやってたそうじゃないですか。多くの隊員が知ってますよ。また泣かせたそうですね。」
「自覚が足りねぇんだよ、あいつは。副隊長のくせに怪我しすぎだ。」
「でも、雛森が負傷するのはいつも隊員をかばってできた傷ばかりでしょうに。彼女が助けなければ今頃五番隊の隊員が重傷を負ってましたよ。雛森だから軽くてすんだっていうのに隊長ときたら頭ごなしに怒ったんですって?」
「………別に頭ごなしじゃ……。」


そういえば理由、きいてなかったな。


「とにかく早く仲直りしてくださいね。気付いてます?この部屋かなり温度が下がっているのを。明日こんな寒い部屋で仕事するのあたし嫌ですから。」


言いたいことだけ言うと乱菊は執務室からでていってしまった。
後に残された日番谷は乱菊が落としていった言葉をゆっくりと頭の中で反芻してみる。


手だけは動いて次の書類を取るも硬くて茶色い机に紙の白さがただ瞳に映っているだけで内容なんか頭に入ってこない。

そんなに派手に俺達は言いあっていただろうか?確かに少し熱くなったかもしれないがそんなに大袈裟にするほどではない。あれ位いつものことだ。

たいしたことねぇ、と自分に言い聞かせるが雛森の涙顔がちらついてちらついてまったくはかどらない。
乱菊が話しかけてから一枚だって仕上がっていない。

腕の傷は痛んでないのだろうか?
五番隊の仕事は終わっただろうか?





まだ泣いてなければいいけど…。





気になり始めるとトコトン気になる。ハッキリさせなければ落ち着かない。


確かに俺ってちょっとしつこい性格かもな。
(ちょっとじゃありません。片思い歴百数十年はハンパなくしつこいです。(松本談))



日番谷は手早く机の上を片付け立ち上がった。
目指すは当然五番隊。雛森に会って何を話すかなんて考えてはいないけど、会えば何かしら解決するはずだ。

このざわついた気持ちが解消される筈だ。






日番谷は、五番隊へ向かった。
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