短編1
□心配性な彼
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隊員達は日番谷がこんなふうに熱く声を荒げて怒るのは雛森相手の時だけだということを知っている。
そして怒ってしまうのも愛しさゆえに、ということも理解していた。
わかってないのは本当に雛森ただ一人なのだ。
だからそんな二人を目撃したものは激しく叱咤されているという光景にも関わらず微笑ましいものを見た気分にさせられてしまう。
四番隊の前でそんな二人のやりとりが始まって約三十分。そろそろ雛森が喚き出すのも御約束。
「……………もん。」
「ああ?なんだって?」
「どうせあたしは弱くて頼りない副隊長ですよ!日番谷君みたいに強くもないし統率力もないし決断力もないわよ!」
「別にそんなこと言ってないだろう!?」
「言ってるもん!間接的にいってたもん!俺様みたいにバシッとかっこよくきめてみろって言ってたもん!」
「言ってねぇーーー!!」
「何よ何よ!日番谷君なんか、ひ、日番谷君なんか…、っく、」
感情が高ぶりとうとう泣き出した雛森。
近くにいた隊員がそろそろか、と止めに入る。苦笑混りで。
「まあまあ雛森副隊長落ち着いて。日番谷隊長もそれくらいにしてはいかがですか?」
もう終業時間ですし。
そう告げる隊員の言葉で日番谷は、かなり太陽が傾いていることに気が付いた。
雛森を見れば涙を滲ませ睨みつけてきている。
ちょっとキツく言いすぎたか、と思うも今さらしょうがない。
涙目の彼女を聞き分けのない子供を見る様な目で見つめてため息一つついた。
「じゃあな雛森。俺の言ったことちゃんときけよ。」
ビシッと指差して言うと隊長羽織をはためかせて十番隊舎へと向かっていった。
後に残されたのは、ワナワナと震える雛森。通りすがりの隊員にヨシヨシとなだめられている。
なによなによあの横柄な態度は何様!?日番谷様!?
「日番谷君の馬鹿ーー!小姑!ちび!けち!阿呆!それから………。」
悔しくて悔しくてありとあらゆる罵りの言葉を叫んでしまったが、まだ言い足りない。
立ち去る彼の背中はさほど遠くはなく、今の雛森の声もたぶん聞こえているはず。「えーっと…えーっと、」とまだ何か言おうとしている彼女に、側にいた隊員は、もう十分だと思いますよ、と言った。
雛森としてはまだまだ言い足りないが、いつまでもここでこうしている訳にもいかず、荒い息をおさめると彼女もまた五番隊へと戻った。