短編1

□impulse
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もともと不安定な体制はバランスを失ったことにより、いとも容易く崩れる。

雛森と唇を重ねながら地面に転がるように。



本能のままに、とはこういうことをいうのか。こんなまだ陽も高く明るい日中に、いくら人があまり通らないとはいえ往来の真ん中。信じられない行動だ。



でもこの時の俺はただ真っ白で、何にも頭になくて、誰かに見られたってかまわなかった。




完全に押し倒した体制で唇を押し付ける。更に深く奥へといきたくて角度を変える。

そんな俺の思考を呼び戻したのは、雛森の苦しそうな呻き声と肩口にかかる衝撃。



拳で肩を叩かれ我に返った。
唇を離して、雛森の顔を見ると息が荒い。かなり抵抗していたのか俺の死覇裝が乱れている。

慌てて身体を起こし、半分寝転がった状態の雛森に手を差し出す。その目は涙が今にも溢れそうで、雛森の着物も砂ぼこりだらけだった。



それを見た途端、怒濤の様に押し寄せる罪悪感。



なにか言わなければ。でもなにを言うんだ?


「…あ、の……俺……。」

「………シロ、ちゃん、なんで……。」


涙目で見つめてくる雛森にかける言葉が見つからない。



「シロちゃん…!」



雛森も何か言いたいらしいがうまく整理出来ないのか口をパクパクさせるばかりで一向に音にならない。


俺はというと、さっきまで止まっていた思考をフル回転させてこの状況をどうするか考えていた。

雛森を見れば、紅い顔をして俺を睨んでいる。…怒っている…よな。明らかに。
当たり前か。
取りあえず平身低頭、下手にでて謝るか、それともなんてことないかのように流しちまうか。

雛森と向かい合うように立ち尽くした俺の目に雛森の震える手が映った。胸の前でギュッと握られた白い右手が震えている。


「シロちゃん…どうしてこんな「なあ、桃。」


雛森の声を遮って出た台詞は、下手に出るのでもごまかすものでもなく……。


「俺は桃が好きだ。一人の男として女の桃が好きだ。姉弟なんかの意味じゃない。お前を愛してる。」


ハッキリ言う。超ド級に鈍い女の雛森にも解るくらいにハッキリと。
今までありえねぇ勘違いで、散々躱わされたからな。ここまできたんだ、最後まで、全部伝えさせてもらうぜ。
大きな瞳を更に見開いてこちらを見つめる雛森の手はまだ震えてて。


その手をそっと握りしめた。
もう片方も握りこむ。



白くて細い指、温かで柔らかい手のひらは一度触れるとはなせなくなりそうだ。



「……桃、お前が好きだ。だからキスしたいんだ。抱き締めたいし、一つにもなりたい。いつも側にいてほしい。」

「………シロ、ちゃん、あ、……あたし。」


両手を俺に握られ逃げられない雛森は顔を俯かせて小さな声で呟いた。












「………好き。………あたしも、シロちゃんのこと、………好き、です。」







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