短編1

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*平+雛






ある日、各隊への配り物のため出回っていた桃が血相を変えて戻ってきた。
初夏の爽やかな風が執務室に舞いこんで、俺はごっつええ気分やった。時間はもうすぐ正午を回る。昼飯は天ざるそばとかええんちゃうか、そんなことを考えとる時やった。


「平子たいちょおーーー!!」


ばっしーん!!と戸を壊す勢いで桃が飛びこんで来た。これにはさすがの俺も驚いたわ。がさつなひより辺りならいざ知らず、普段穏やかな桃がけたたましく戸を開けるとこなんか始めて見たからな。頬杖ついて寛いでいた俺も思わず背中を伸ばしてしもた。


「いったいなんやねん!」


「平子隊長!今すぐ机の中のものを全部見せてください!」


「はぁ?」


隊首机に乗り上げる剣幕で桃は俺に詰め寄った。わけがわからんくて俺は咄嗟に対応できひん。すると反応のうっすい俺に桃は足を踏み鳴らしてまくし立てよった。



「今ですね、各隊を回ってたらあちこちでうちからの提出書類や伝票がまだ回って来てないって言われたんですよ!」


「はー?」


「はー?じゃありませんて!」


桃はバン!と手で机を叩いて喚く。


「私が現世調査に行ってたこの半月分の色んな事務書類、全部平子隊長にお任せしましたよね!?いったいどうされたんですか!?」


「そないにキーキー言わんでも聞こえとる。伝票なら三席に聞いたらええやろ。他のやつも……どうしたかな?」


「ちょっとぉ!」


「あーうるさいやっちゃな。たかが書類ぐらいで必死にならんでもええやん。俺らの本来の役目はこんな事務仕事ちゃうやろ。」


「…隊長、一見正論ですがそんなことで誤魔化されませんよ。ちゃんとデータや記録を残すことは重要です。特に平子隊長のように惚けるのがお上手な人には証拠物を突きつけるのにも役立ちますしね。ちなみに三席に聞いたところ伝票に隊首印が必要だったから平子隊長に回したとの答えでした。」


「そないに低いトーンで言わんでも…あっ、ちょっ、お前人の机を勝手に…、」


「失礼ながら探らせていただきます。あ!これ三番隊に出すやつ!やだこれ十二番隊の、1ヶ月前が期限!?ええ!一番隊の、5枚もある!あっ!こっちはカビの生えたお饅頭!あれ?また新しいネクタイ買ったんですか!このデザインなんかおじさん臭くないですか?あぁ!ずっと探してたあたしの爪きりーー−ー」


もうやめてぇ!ってなりそうなくらい桃は俺の机を凄まじくひっくり返す。その度にあがる悲鳴に俺は汗がだらだらと。

そう言うたら前、三席が伝票の束を持ってきたような…一番隊から報告書を早よ出せ言われたような…。


「隊長…私が留守の間…遊んでましたね?」


「そんなことあらへん!俺は隊長として職務を真っ当しとったわ!」


俺がバン!と机を叩いて立ち上がって言い返せば桃もバンバン!と叩いて負けてへん。


「ならこの現実はなんですか!もー、今すぐ取りかかってください!」


「書類溜めてたくらいで焦んな。飯食ったらちゃっちゃと終わらせるし待っとれ。」


「いーえ、お昼ご飯を食べる前にやってください。」


「お前は鬼かぁ!腹減って死ぬわ!」


「大の大人が大袈裟な。平子隊長はいつもお昼ご飯を食べれば子供みたいに眠くなるじゃないですか。ですから空腹の内に全部片付けてください。」


「お前は…ようもシれっと…。」


「大丈夫です。一食抜いたくらいで死にませんから。私が十二番隊にいた頃なんか何ヶ月も食事をとりませんでしたよ。」


「それ臓器回復期の話やん!笑えへん!比較にならへん!」


そう言ってる間に桃は雑誌やら小物達が散らばっている机の上を綺麗に片付け、いつでも仕事に取りかかれるよう整えた。
自らが蒔いた種やけど昼休みなしかと思えば力が抜ける。がっくりと脱力したら俺の腹の虫がぐぅと鳴った。


「…仕方ありませんね…じゃあ、私が食べさせてあげますから隊長は食べながらお仕事をお願いします。」


にっこりと春のひだまりのような笑顔が独裁者の笑みに見えた。

この小娘め……。









 
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