短編1

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*原作日雛+平



死神をやっとるからには辛い選択を迫られる場面は多々あるもんや。席次が上になればなるほどその重みは増して、唇を噛んで血を流しても押し潰されそうになる苦しさからは逃れられへん。俺は隊長やし男やからそう簡単に涙は見せへんけど、俺んとこの副官は女やからか性格なのか、かなり涙腺の緩いやつや。そのくせ強情。へんなとこでやたら負けん気が強い。まぁ副隊長なんやし?多少の気の強さは必要か。


「もう落ち着いたんか?」


「元からなんでもありません。」


「嘘こけ、赤い目ぇしよってからに。」


「寝不足なだけです。」


上司の方を見もせずに副官は自分の机に仕事を広げ、筆を走らせた。

















俺達は昨日、大事な部下を失った。救援要請で駆けつけた時にはその大半が虚の犠牲になっていた。
まだ調査段階で討伐目的ではなかったとはいえ小隊を選抜したのは桃。もっと厚い編隊にしておけばとこいつは己を責めている。それを言うなら現世調査の全てに許可を下ろした俺の方こそ責任は甚大や。もちろん気分は滅入っとる。けど隊長がいちいち泣き喚くわけにはいかんやろ。
死んだヤツらかて命を落とすんは覚悟の上で死神になったんや。あいつらに敬意をはらい、その最期を誇りとするんが残されたもんの務めやろ。けど桃が目を腫らすほど泣くんは逝った隊士との付き合いが俺よりも長かったからやろう。


朝、出勤してきた時の顔があんまりひどかったもんで、思わず指摘したら桃はガンとして泣いたことを認めへん。眼球真っ赤で瞼が腫れとったら誰でも泣いとったと分かるっちゅうねん。けど副官は意地でもそのことを認めようとはせん。まぁええねんけど。いつまでもめそめそ泣かれても俺は女の慰め方なんか知らんからな。



平静を装いいつも通りにテキパキと仕事をこなし始めた副官に俺は小さく息をついた。


「十番隊の日番谷だ。入るぞ。」


「おー、勝手に入れ。」


子供のくせしてやけに低い声を出しよる輩登場。一応桃の保護者気取りなこいつは定期的に小さな用事を携えて五番隊へとやってくる。保護者枠から逸脱した感情が見え隠れしていることには触れたらあかん。護廷隊内においての暗黙の了解だと乱菊に聞いた。面倒くさ。



そいつがずかずかと執務室に入ってきて俺に形ばかりの用事を渡す。ご苦労さん。そして自然な体で首を巡らすとやっと本日の目標物に目を留めた。


「なんて顔してんだよ。」


「日番谷君…………。」


「日番谷隊長だ。」


「なによ、なんで、」


「俺は届け物を持ってきただけだ。」


「…………………………う、」


短いやり取りの最後、不意に桃の顔が歪み、涙が零れた。それはすぐに止まるものではないらしく、ぼたぼたと止め処なく溢れ出る涙は自分でも処理に困るほど。桃は両手、袖口で必死に顔を拭いている。ガキんちょは俺の前からてくてくと桃の前に歩いて行って、わざとらしい溜め息をついた。


「はぁ……………そんなんで仕事できんのかよお前。」


「で、できてたよ。」


涙声の返事が返されるとまた冬獅郎が短い息をついた。
確かにお前が登場する今の今まで真面目にやっとったな。けどお前の顔を見たせいで堰が切れてしもたみたいや。

冬獅郎は首に巻いていた布を外して桃の頭に雑に放った。突然暗うなった視界に桃が慌てた声を出したけど、冬獅郎はかまわんと俺へと振り向いた。次に来る言葉は聞かんでもわかる。
俺はしっしっ、と手を振ってやった。


「あー、今日は暇やしどこぞへなっと行ってこい。当分帰ってこんでもええわ。」


「えっ、あの、それは、平子隊長…!」


「だそうだ雛森、行くぞ。」


「えぇ!?わ、ちょっと、前が見えないよ。」



冬獅郎は自分の長い襟巻きとまだ格闘している桃を立たせ、手首を掴んでさっさと出口へと向かう。バランスを崩しながらあたふたと桃がついていく。



「日番谷君、あたしまだ仕事が途中で、」


「平子の許可は下りたぞ。」


「桃、当分帰ってこんでええて言うたやろ。早よ行けや。」


「は………い……平子隊長……。」


命令調で言うてやっと桃は大人しなった。緑の襟巻きをまだ頭に被ったままなんは、濡れた瞳を見られたないさかいやろう。

幼なじみの二人は仲良うおてて繋いで出て行きよった。俺はなぜか一仕事やり終えた疲労感に包まれた。


桃が悲しみを吐き出せる場所はあのガキんちょの所なんは分かっとった。なんでも背負いこみがちな副官に、身近な所でそういう人物がいるっちゅうのは安心する。けど、




あのガキが去り際に見せた勝ち誇った顔はなんや猛烈にムカつくわ。それ余計やろ。





 
 

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