短編1
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*原作平+雛
十番隊のガキンチョはどうやらしょっちゅううち、五番隊に来とるみたいや。
執務の合間の気晴らし散歩から帰って来たら桃がちょうど湯呑みを片付けとるとこやった。
「あ、おかえりなさい平子隊長。」
「誰か来とったんか?」
「はい、日番谷く…隊長が来られてまして、今帰られたところです。」
「ふーん、またあのガキ来たんか。」
「ガキじゃありませんよ、日番谷君はちゃんとした隊長です。」
幼なじみを貶されて桃はしかめっ面で俺に注意をした。それに俺は適当に返事をして自分の席に着く。
隊長やろうとガキはガキやろ、と言いかけてやめた。どうせ桃はこれにもムキになって抗議するやろからな。
「ほんま、いっつも仲ええなぁ。」
代わりに少しの皮肉を込めて言うたら、破顔した桃が元気に「はい!」と返事した。あいつと仲良し言われてそんな嬉しいんか?一点の曇りも無い笑顔で言い切った桃は心底あのガキが好きなんやろう。
「私達、小さい頃はもっと仲良しだったんですよ。もう本当の姉弟みたいに!」
「へー…。」
姉弟な…………桃……お前はあのガキがなんで特に用もないのにまめまめしくうちへ来るんか考えへんのか?3日に一回は来とるやん、俺が知っとるだけでそれやで?ほんまは毎日来てんのとちゃうか?
お前のこと心配しとんのは分かるけど頻繁すぎるやろ。
俺が言うんもなんやけど、あいつ一応隊長やろ?ここの様子を逐一窺ってんと、もっと仕事せぇやて言いたいわ。なんや俺最近、姑ができたみたいな気分やで。
それくらい思われてて姉弟の一言で片付けるて…………無いわ〜。
「日番谷く…隊長、どうやら声変わりみたいなんですよ、本人は風邪だと言ってるんですけど、それにしてはいやに長引いてるし他の風邪症状もありませんし、あたしは絶対に声変わりだと思うんです。」
俺の嫁気分を知らずに桃は今日の幼なじみとの話題だろう、楽しそうに目を細めて笑った。それはどこから見ても家族の成長を喜ぶ肉親の顔で、俺の目は半眼にならざるをえない。
流魂街でいっしょに暮らしてたんは知っとる。血の繋がらん婆さんとあのガキと三人で家族同様に暮らしとったんやろ?お前らが死神になっても流魂街には今も婆さんが一人でいて、たまの休みには二人で帰って三人で寝たりすんねんな。
いつやったかそう話してくれたな。帰る場所がおんなじで、迎えてくれる人もいっしょ。せやから今もこれからも自分らはずっとずっと家族やと言うてたな、覚えてるで。
けどな、桃、こんだけ毎日気にかけてもらっておいて弟扱いはないと思うんや。
お前は真面目で頑張り屋なんは解っとる。けど思い込みが激しいっちゅう欠点がある。自分より小さて家族みたいやから弟、ていうんは短絡的やで。
俺はひよ里のこと小さいけど家族とは思ってへんで、まぁ…俺のことはどうでもええねんけど。
あのガキの肩を持つわけやないけど、お前少しは違う視点からあいつのこと見てやれや。さすがの俺もちょっと可哀想に思えるわ。
テーブルの上を綺麗に片付けた桃が俺に新たな茶を入れてくれた。隊首机の上に湯呑みといっしょに菓子も置かれる。
現世では馴染みのある菓子が。
「誰かの土産か?」
「浮竹隊長からです。皆さんでどうぞと仰ってくださって。たくさんいただいたんですよ。何ていうお菓子でしょうね?」
「ふーん、シュークリームか、そういうたら久しぶりやなぁ。」
「え、シュークリームってもっと大きいやつですよね?」
「シュークリームの小さいやつはプチシュー言うんや。」
「へぇ、可愛い名前ですね。」
指先で摘めるほどの小さなプチシュー。形は小さいけれど、シュークリームはシュークリームだ。
一口頬張った俺の前でにこにこ顔の桃が残りの箱を片付けている。その大きな箱から考えて、浮竹は桃や他の隊士にもと言ったんだろう。甘い物好きの副官の目が、既にプチなシューに奪われている。
「桃。」
「はい。」
「それ後で俺が全部食べるし置いとけよ。」
「え…えぇ!これ全部ですか!?けっこうたくさんありますよ!」
「あぁ、全部食うから置いとけ。お前には一個もやらんからな。」
「は?…………もしかして……意地悪ですか?」
「そうや、お前に見せびらかしながら全部一人で食ったる。」
「なんでー!?」
「これを食うにはお前は後百年早い。」
ぶうぶう言う桃を無視して俺は二個三個と食べてやった。
プチでもシュークリームはシュークリームや。可愛い名前でもシュークリームはシュークリーム。
あのガキも子供やけど他人は他人、男は男なんやで。
そんなことも解らんお前には当分これは分けてやらん。