短編1

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五番隊だより






*平+雛+ローズ







平子隊長が五番隊の隊長に就任後、毎日たくさんのお客様がやってくる。主に仮面のお仲間の方々なのだけれど、皆さん1日に一度は来てくださっているような気がする。
真面目にお仕事の話をされる方、他愛もないお話をして談笑されて帰られる方、ただ読書をして帰っていかれる方など、平子隊長のお友達は皆さん個性的でとても楽しい。

そして今日は昼過ぎから三番隊の鳳橋隊長が楽器を片手にいらしている。ここで暫く弾いてもいいかと平子隊長に許可を貰い、渋々頷いた隊長を気にせず颯爽とバイオリン?という珍しい楽器を弾いている。その表情は実に楽しそうだ。鳳橋隊長が身体を揺らすたびに長い髪もいっしょに揺れて、今にも自由に飛び立ちそうな鳥に思える。

何でも三番隊ではあんまり毎日弾いているからとうとう吉良君に怒られたらしい。とても素敵な音色なのにと思うけれど、毎日聞くのと偶に聞くのとでは感じ方が違うのかな。


その鳳橋隊長はもう一曲、と今度はフワフワ軽快な曲を弾いた。


「これは桃の曲だよ。」


「えぇ!?あ、あたしのですか!?」


「そう、丸くて柔らかい女の子らしいメロディーだろう?」


「は…ぁ……面白い…音楽ですね…。」



「桃、ローズのことにいちいち真剣に答えんでええで。おい、お前今日は早よう自分の隊に帰ってやれや。お前んとこの副官、最近顔色悪いで。」


「いや、彼は元々ああいう顔色なんだよ。」


「……………吉良君がんば。」


同期の吉良君が最近四番隊通いをしている噂は本当みたい。あたしは今度、吉良君に何か元気が出る物を差し入れることに決めた。



ご機嫌な鳳橋隊長に平子隊長は呆れたように「けっ」と横を向く。その様子を見て鳳橋隊長は静かに目を閉じ、再び弓を奮う。



ゆっくりとしたスローテンポ…どこか物悲しい…。


「今の真子の心だよ。題名をつけるなら、そうだな…郷愁、かな?」


「阿呆なことぬかしてんととっとと帰れや。」


「………郷愁?」

あたしはその言葉をそっと呟く。

二人の隊長はそれきり何も言わなくなった。鳳橋隊長はまだ曲の続きを奏でてて、平子隊長は頬杖をついたまま黙って音楽を聴いている。


少し高めの旋律はあたしにとっては潤林安の夕暮れを思いださせた。

なら平子隊長は?
隊長が戻りたいところはここじゃないの?
もしかして現世を恋しく思っている?


「気になるんなら無理しないで会いに行けばいいのに。」


「何でやねん。行ってもどうせアホハゲ言われて跳び蹴りくらうだけや。」


頬杖ついた隊長が吐き捨てるように言い、鳳橋隊長が苦笑した。




隊長には会いたい人がいる
会いたい人のいる場所が帰りたい場所、だから郷愁……か。








あたしは今日、また一つ平子隊長のことを知りました。









 
 

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