短編1

□放熱
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放熱B













雨の音など随分前に聞こえなくなった。


素敵なホテルの部屋もまだ観察していないし、初めて訪れた街の探検もほったらかし。
エアコンがついているはずの部屋はさっきから暑くてしょうがない。

あたしの首に滲んだ汗を日番谷君が舌で掬った。生暖かい感触に叫びそうになったら、すかさず彼の唇が降ってきた。情けない悲鳴を出さずに済んだのは良かったけれど再び始まった長く深いキスにあたしは日番谷君に縋りついた。


ねぇ待って、と言いたい。




































日番谷君が好きだと囁いてくれる。あたしの全部が欲しいと口移しに伝えてくれる。痛みを気づかってくれて、大丈夫かと撫でてくれる。

胸を高ぶらせる言葉の数々に、だけどあたしは返事できない。日番谷君が何か尋ねてくれても彼の唇と舌に遮られて喋れない。口内を暴れる舌に翻弄されて、あたしは呻きに似た声をあげるだけ。もっとキスをと強請ったけれど、少し手加減をお願いしたい。


「桃……すげぇ…熱い……。」


「ん…むぅ……、」


揺れる日番谷君があたしの温度を教えてくれる。
そんなことわざわざ言わないで、恥ずかしいよと訴えたいけれど、自分の言いたいことだけ言って日番谷君はまたあたしの口を塞いでしまった。
おかげであたしは酸欠の金魚みたいに隙間からもごもごパクパクするだけで音にできない。
与えられる刺激に頭がおかしくなりそうなのに、叫び声さえもろくにあげさせてもらえなくて泣きたくなった。


ねぇ、あたしの声、聞きたくないの?自分の言いたいことだけ言って返事を待たないってどういうこと?
日番谷君のスピードにあたし全然追いつけないよ。


だからあたしは時々日番谷君の頭を掴んで無理矢理唇から引き剥がすのだ。


「 ……っぷは、も……ちょっと…待って……。」


「なに……?」


「あのね、あたしの言うことも聞いてよ。」


「……ちゃんと聞いてるぞ?」


「うそ、ちっとも喋らせてくれないじゃない!」


「そうか?…わかった聞いてやる。いったい何だよ?」


「あのね……えっと………………。」


こんな真っ最中の体勢であたしと日番谷君は真面目な顔でにらめっこ。暫し動きを止めてあたしはあれこれ言いたかったことを考える。
でも、いったい何だったっけ?
「恥ずかしいこと言わないで」も「痛くないよ」の返事もタイミングがズレ過ぎててなんだかおかしい。その場の勢いとか間合いを逃すととっても言いにくい台詞だ。面と向かって真面目な顔で、いったい何の打ち合わせですか状態だ。
これってもしや雰囲気ぶち壊し?

聞く体勢をとってくれた日番谷君には申し訳ないけれど、言いたいことの予定変更はせざるを得ない。



「どうした?」


「えーっと…あの…………………。」


「ちゃんと聞くから……言ってみろ。」


「うーん……とね………えっとね………。」





優しく尋ねてくれる日番谷君に小さく小さく「好き」と言ったら容赦なく食べられた。


















なんだそれはなオチ
考えすぎて結局彼ペースな雛森さん
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