短編1
□放熱
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細い肩を掴んだ手は直ぐに背中へ回し、雨の匂いごと桃を抱きしめた。
俺の胸に顔をうずめて小さく震える桃が愛しくてたまらない。本当はずっと我慢していた。もっと早く、こんなふうに愛しい気持ちのまま桃を抱きしめたかった。夜までなんか待てやしない。
「……桃……いいか?」
「え……?ひゃあ!」
俺は足元にある鞄を足で退かし、桃から身体を離すと彼女の膝裏に腕を入れて掬い上げた。驚く桃の返事は聞かずに横にあるベッドへとなだれ込む。
この瞬間を待ち焦がれていた。
彼女の香りに包まれたいと切に願い、喘ぐ姿を何度も想像した。
俺はブレーキの壊れたジェットコースターだ。桃を見てると歯止めがきかない。
思いの全てを言葉で伝えたいけど口下手なのは自覚している。とても表現できやしない。
だから、例え百万回好きだと叫んでも物足りないくらい桃が俺の全てだということを行動で、温度で、荒い吐息で伝えたい。
「桃……いいか…?」
「ひ…つ………、」
身体を強ばらせる桃に再び尋ねると揺れる瞳に俺を映し、桃はこくんと頷いてくれた。
確かな同意を得られた俺は、ゆっくりと彼女に覆い被さり長い長いキスをした。永遠に離せないんじゃないかというほど長く熱いキスをした。
外は嵐の様相だ。太陽の光も差し込まない。おまけに薄いカーテンが引かれてて、俺達の部屋は夕暮れ間近のように薄暗い。
確かこの後は近くにある温泉に行くんだった。その後、飯を食って土産を買って。でももう、そんな予定どうでもいい。せっかくここまで近づいた距離を離すなんてできっこない。
「桃…好きだ……。」
「ん……あた……っふ、」
好きだと言ってまた彼女の唇を深く塞ぐ。桃と唇を重ねたまま、更に覆い被さろうとしたら彼女は両手で俺の頭を掴み、無理矢理押しやった。
ちゅ、と音をさせて離された距離に桃を見れば、珍しく眉を寄せて俺を睨む。
「なに……どうかした…?」
「もう……あたしにも言わせて……。」
怒った口調は次の瞬間笑顔に変わる。
桃の指が俺の頬を撫で、キスを誘う。途切れた銀糸を追うように、桃が唇を寄せてきた。
「大好き……好き……怖いくらい好き……。」
「も……、」
「もっとキスして……。」
「ん、」
俺のと重なる直前に、駄目押しの大好きを吐息に混ぜて桃が囁いた。
最高に身体の中が熱くなって、もう我慢の限界だ。
俺は無我夢中で細い身体を締め上げる。まるで桃に巻きつく大蛇のように。
「あ……ん……苦しい…よ…、」
「……お前がそうさせてるんだぞ…。」
「汗…かいちゃう……。」
俺の中が熱いようにお前の中も熱いのか?
じやあ、嵐が去ってしまう前に二人の熱を確かめあおう。火傷しそうなくらい熱いものを曝け出そう。
荷物をほどく間も待てず、俺達は熱の交歓に勤しんだ。