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□降り積もる
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*原作平子(高体温その後)






桃と冬獅郎が結婚して二人の間に子供が生まれた。無事に生まれましたと報告を受けて好々爺よろしく面会に行った日を俺は昨日のことのように覚えとる。母親となった部下の腕の中で目を瞑る穢れなき存在に俺はとても驚愕した。偶然にもその時薄く開いた目を見て2度びっくり。
銀髪碧眼色白の鼻筋通った新生児。見た目は父親そっくりで母親の要素なんかこれっぽっちも見受けられへん。あの男の真の恐ろしさを見た気がしたわ。
ここまで強遺伝子か!と思わず叫んでしもていっしょに行った乱菊に慌てて口を塞がれたけど俺は皆んなの気持ちを代弁したに過ぎひん、あの場におった皆がそう思たはずなんや。だが開口一番の感想に周りの視線は痛かったのなんのって。主に赤ん坊の父親からの。
せやかて事実やん。みんな思とるけど言わへんだけやん。別に悪事を働いたわけでもなし、濃い遺伝子の1つや2つ、声を大にして何が悪い?冬獅郎の執着が酷いんなんか今更やん。1人の男の長年拗らせた想いが通じて惚れた女と一緒になれた、自分そっくりの子供もできて万々歳。世界が一つ平和に近づいたんや、めでたしめでたしやろ。俺は悪ない。素直に祝ってんのやで?
その男の桃への執着の集大成とも言うべき赤ん坊はすくすく育ち、もうすぐ一歳になる。桃は本来子供が3歳になるまで使える育休を返上し子供が誕生日を迎えた翌春、再び死覇装を身に纏うという。無理せんでもええのにな。まぁ、当面は四番隊に併設されとる保育所にいれて時短勤務になるやろ。護廷の福利厚生が充実しとるさかいにできることや。
つまり桃は復職するのだ。



「こんにちは、平子隊長。」
「おー!桃やんけ!」
「来月からまた平子隊長の元でお世話になるのでちょっと御挨拶に伺いました。」
「なんやわざわざ………おお、大きなったなぁ。元気か?」


まだよちよち歩きになるかならんかの子を腕に抱き、桃がペコリと頭を下げる。にこやかな母親と対照的に2つの翡翠はまばたきもせずに俺を凝視、凝視、ひたすら凝視。うーん、父親そっくりやな。俺もしかして値踏みされとるんか?どうか御手柔らかにとちょいと団子のような手をつついてやれば動かぬ翡翠がまあるくなった。


「来月からこの子も保育所に預けるから今日は慣らし保育も兼ねてきたんですよ。ほら、平子隊長だよ、ご挨拶は?」
「どや?俺の声分かるか?お腹ん中でさんざん声聞いてたやろ?」
「ゔ?」


忘れたとは言わせへんで。桃の腹の中におる時から子守唄はたっぷり歌ってやったさかいにな。そこんとこは冬獅郎には負けてへん。俺がしつこく話しかけてやったやろ?それにしてもぷくぷくやな。生まれて2年にも満たへん命は見るもの全てが珍しいんか目の前でニッと歯を見せれば興味津々、忽ち表情に色が付く。



「真ちゃんやで〜、真子くんでもええけどな。」
「ちん…じ…?」
「ちん……っふ、珍事って……、」


子供の舌足らずに桃が横を向いて肩を揺らす。


「おい桃、お前それ失笑?珍事やない、真子くんや、しんじ、くん。」
「ちんじ?」
「プーッ!」

こてんと首を傾げる仕草は桃に似とる。愛らしい仕草に頬が弛みかけたが隣で母親が爆笑するのに萎えてしもた。


「あっはっは!珍事だって!」
「おい桃!ここは母親が怒るとこやぞ!」
「だって、珍事って、ふふっ、ふふふ、ぷぷー!」


桃が腹を抱えて笑えば子供も嬉しいのか訳も分からずににこにこと笑う。父親の仏頂面を知っているだけに新鮮や。あの男のにこやかな顔なんか俺今まで見たことないで。つくづくこの夫婦はプラマイ0でできとると思う。父親がにこりともせん代わりに母親はいつもにこにこ……………てことは0に位置するこの子供はちょうどええ加減やということか?


「うちのいるか?」
「お、冬獅郎やんけ。」
「今ちょうど平子隊長に挨拶してたところよ。」
「子連れであんまり長居するなよ。今晩夜泣きしちまうぞ?」
「そうだね、御仕事の邪魔しても悪いしね。平子隊長すみません、またあらためてご挨拶に伺います。」
「おう、いつでも来いや。ちびすけもまた真ちゃんに会いにきてな〜。」
「ほらバイバイして?」
「ちんじバイバイ……。」
「ぶふ!!やっぱり珍事って言ってる!!」
「桃!お前が言うから可笑しなんねん!」
「だって、可笑しい、ぷぷ、」
「ちんじー。」


桃があまりにも笑うからか、それとも揺らされて楽しいのか、冬獅郎Jr.が俺を指してまた言うた。それが意外な男にも飛び火して。


「ぷっ、なんだそれ、あはははは。」
「ねー、可笑しいでしょ?」
「なんやねん夫婦して俺を笑いもんにする気か?」


一応文句を垂れて見たけどこっちは珍しいもんを見て内心びっくりや。あの冬獅郎が笑とる。一年中眉間に皺を寄せとる奴が歯ぁ見せて笑うてる。二人の子供も両親の間で御機嫌や。
こんな細やかな伝染が積み重なって人は形成されていくんやな、って柄にもなく思たりして。
あー、俺も年取ったな。





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