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□510000h感謝小話「スピーチ」
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桃、綺麗だよ。
お前をそんなに綺麗にしたのが隣にいる男だと、俺はまだ認められない。


「彼女は常に僕と外を繋ぐ接点でした。
姉と言いましたが桃さんは僕に色んな事を教えてくれた先生のようでもあります。初めてのおつかいで二人いっしょに転んだ時、わぁわぁ泣き喚いていた桃さんは俺の膝から血が出ているのに気がつくと自分の傷には気づかずに俺の膝に絆創膏を貼ってくれました。おかげで俺の涙は止まりました。
文化祭のアーチ作りも桃さんは皆んなに差し入れしたり準備の買い出しに走ったり、一番早く来て休憩も取らずずっと作業してるから始めはブーブー文句を垂れてた連中も途中からは必死になった。闇雲で無茶苦茶なやり方だけど大きな山を皆んなで乗り越えた経験は何ものにも代え難く、最優秀賞をもらった時の感動は大きかった。たかが文化祭が高校生活で一番大きな思い出になるとは思いませんでした。だから卒業した後もその仲間とはいい友達です。僕はきっと桃さんと出会わなければこんなに人生を楽しむことができなかった。頑張ることが嫌いで上手くいかないことは周りのせいにして鬱々した毎日を送っていたでしょう。」


マイクを下げて彼女を見やると桃の潤んだ眼差しとぶつかった。



「桃、お前のおかげで俺は少し自分が好きになれたよ。ありがとうな。」
「シロちゃん……。」


ありがとう。俺の人生にいてくれてありがとう。お前と巡り会えたというだけで俺は未来に夢を見られる。

しかし、これで終わりと思うなよ。

ペコリと頭を下げると会場が温かな拍手に包まれた。マイクを受け取ろうと式場の係員が近づいてきたが俺はそいつに掌を向けて制し、今一度酸素を取り込んだ。


「聞いての通り、桃は俺の人生になくてはならない女だ。」


ガラリと変わった俺に会場中の目が丸くなる。リング上のレフェリーよろしくマイクを持つ手に力を入れて聴衆どもに俺の声を響かせた。いいかお前ら、俺が今から言うことをよく聞けよ。


「そんな女に惚れないやつなんていないだろ?」


一番近くにいた聴衆その1に同意を求めてみる。当然ながら戸惑う観客からの返事はない。


「え、なに……?」
「日番谷どうした?」

友達も突然の豹変に驚きを隠せない。
桃争奪戦は俺の中じゃ終わってねぇんだよ。こちとら人生かけて愛してるんだ。


「いいか吉良、俺はまだ桃を諦めたわけじゃねぇからな。何年経とうが絶対にお前から桃を奪いとってやる。」


きっぱりと言い切って吉良へとマイクを剣のように突きつけた。ざわめく会場、青くなる新郎、この非常事態が信じられないのか目を白黒させてる桃。やっちまった。とうとうやっちまったぜ。墓場まで持っていこうと思ったけれど俺は彼女の幸せより自分が幸福になる道を選んじまった。
許せ桃。でもいつか必ず奪い取る。何十年後か、爺さん婆さんになった時そんなこともあったなぁと沁々する未来を見せてやる。


「桃、世界で一番愛してる。」



痛む胸を無視して告げれば純白の花嫁はわっと突っ伏して泣き出した。

















































「………………………………………………朝、か。」


目覚ましが部屋中に鳴り響く中、目を開ければ毎日見てる自室の天井と目があった。額にはびっしりと汗をかき、心臓はマラソン後のような忙しなさ。
夢、か。
そう気づいて俺は安堵の息を長々と吐き出した。全身から力が抜ける。
なんつー非リアルな夢だ。俺はあらためて汗を拭った。心底夢で良かったと安心する。人の結婚式をぶち壊すなんて、夢の中の俺はとんでもなくアウトなやつだった。しかも桃の。
花嫁略奪なんて大それた夢を見た原因は検討がつく。昨日の放課後、桃が吉良に誘われてるのを見かけたせいだ。むかむかムカついて、その荒くれた気持ちのままに寝たからだろう。完全に遅れをとったと思ったら早速夢に見たわけだ。意外と単純だったんだな俺。今だ煩く喚く目覚ましを止めてのっそりと起き上がる。額を押さえて薄らいでいく夢の記憶を辿っていけば、未練たっぷりで諦めきれない俺がいた。あれを現実にはしたくない。
そうさ、してたまるか。
俺は立ち上がるとクローゼットから服を引っ張り出し、1分で着替えを完了させた。今が何時か知らないが、今から行くと桃へ連絡をして部屋を出る。これ以上遅れをとる訳には行かないんだ。ウェディングドレスを着た桃は眩しいくらい綺麗だったけど、その美しさは俺だけのものであってほしい。あんなスピーチを任されるなんて喩え夢だとしても二度とごめんだ。

今から言うからな、首を洗って待ってろよ。

愛の告白をするとは到底思えぬ形相で、俺は桃んち目指してドアを開けた。








*夢オチたのしー
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