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□470000h感謝小話「 インプリンティング」
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「シロちゃん……ポテト半分食べない?あたしお腹膨れてきちゃった。」
「んなデカいバーガーにするからだろ。」
「だってこれ美味しそうだったんだもん。ねぇ、お願い!お願いします半分食べてください!」


そう言って桃は両手をパン、と合わせた。正面にある大きな瞳が俺を捕まえる。ふん、んな上目使いしたって効かねえんだからな。仕方ないから食ってやるけど!俺が難しい表情を作りながらポテトに手を伸ばすと桃の表情が一変する。


「ありがとー、シロちゃん大好き!」
「ぐ、」
「わっ、なに!?喉詰めちゃった!?水、水!あ、コーヒーがいい?」


バカ野郎!心の籠ってない「好き」を気軽に使うな!心臓に悪いだろうが!付き合ってくれねぇくせに!


「はぁ、はぁ………お前俺の心を弄んでんのか?」
「なに?ジュースの方が良かった?これ飲む?」


惚けた顔して桃は自分の飲みかけオレンジジュースを差し出した。俺の目は点になる。え?お前の飲みかけを俺にも飲めと?
ちょっと待て。俺と間接キスをしたいのか?させるのか?するぞ?断らねえからな?いいのか?いいんだな?桃の様子を窺いながら恐る恐る手をのばしてMサイズの紙コップを掴んだら心配そうな目がどこまでも澄んでいた。罪悪感はほんのちょっぴり、残り九割方は期待と煩悩。俺は汗をかいた紙コップを受け取った。氷がぶつかる涼しげな音がして、さながら疾走スタートの轟音に聞こえた。
するぞ!!桃と間接キッス!!
俺は爆発しそうな心臓を抑え込み、えいや!と勢いつけてストローをくわえた。甘くて酸っぱいオレンジが喉を刺激的に通っていく。あー、俺はついに桃とストローを共有してしまった。もう結婚するしかない。目頭に熱いものを感じて上を向く。日番谷冬獅郎、わが人生に一片の悔い無し!!


「シロちゃん落ち着いた?え、なんで涙目?」
「もういつ死んでもいい………」
「??????ポテトで自殺を図る人初めて見たよ………」


ファーストフード店で一つのジュースをわけあいっこ。きっと今の俺達は誰が見たって睦まじい恋人同士に見えるだろう。


「どうせなら今フォーカスされたい………。」
「なに言ってんの、あたしとなんか熱愛報道にならないよ?」
「十分なるさ。」
「日番谷冬獅郎が付き合う女はモデルか女優だろうって世間は思ってるんだよ?あたしとじゃせいぜい姉弟だと思われるんじゃない?」
「んなことねえよ。」


なぜ姉弟になるんだよ。俺達全然似てねぇだろが。
あたしとなんか、と桃は言うがこいつは自分の可愛さを分かっていない。誰かに盗られる前に俺のものにしておかなきゃ安心できない。たとえまだ付き合っていなくても記事になれば桃は俺の女だと世間は思う。外堀から埋めていくのも一つの手だろ?一つのジュースを二人で分けっこしてる風景を何処かのゴシップ誌が盗撮してくれねぇかな。そうすればピースサイン付きで撮られてやるのに。


「それもう盗撮じゃないよね?そんなこというならジュース返してよ。」
「そうか、間接キスなんて中途半端なことせずにガッツリキスしちまえば正真正銘の熱愛報道ができるんじゃねぇか。」


なんて名案なんだ。そうすりゃ難攻不落な雛森城も観念して白旗を上げるかもしれない。
徐にに腰を浮かした俺を見て、桃はギョッとして胸の前で両手をブンブン振った。



「ちょちょちょ、やめてよ!変なこと考えないで!最近おかしいよシロちゃん!なんか悩みでもあるの?!」
「ねぇ。あるとしたらお前のことだ。」
「適当なこと言わないで!悪ふざけが過ぎるよ!」
「おい桃、こっち向け。キスするから。」
「したら怒るからね!」
「お前が怒ったって恐くねぇよ。」
「泣くから!」
「…………………………………………………。」






俺はおとなしく腰を下ろした。


桃が泣くのはダメだ。
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