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□470000h感謝小話「 インプリンティング」
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酒に任せて告白できたのはいいけれど、無駄に長かった幼馴染み期間のせいで俺の言葉はふざけた冗談になってしまった。
あの後、強引に桃の手を引っ張ったらバランスを崩したのは俺の方だったからこれまた辛い。尻餅ついたのなんか実に何年ぶりだったろう。格好悪いの極地だが、それでもめげずに付き合え俺を選べと喚いてたら「はいはいどーもありがとね」とぞんざいな扱いを受けた。掴んだ手を逆に引っ張っられながら好きな女の子に起こされたその時の俺の気持ちが解るか?恥ずかしいやら悲しいやら、もう2度と告ってやんねーからな!とブチキレたいがそれで切り捨てられる恋じゃない。これだから幼馴染みは厄介だ。最初の立ち位置が恋愛対象外なんだからな。まぁフラれたわけではないからまだ望みはあるんだと俺はポジティブ思考にシフトチェンジした。大失恋の挙げ句桃との仲がギクシャクするよりはマシだ。今の状況が生殺しとか半殺しなどとは思わない、思わないんだ。レッツ アタック 冬獅郎!!
……なんか誰も見ねぇ安もんのドラマみたいだな。




























「また派手に撮られたねー。」
「………違う…これはドラマの打上げで……よろけた相手をたまたま支えたところを撮られたんだ……信じてくれ……俺は清い身体だ……。」
「ふーん、あ、猫漫画載ってる。」
「…………。」



桃は厚切りBLTサンドを大口で頬張ると俺の頁をさっさと捲り、次頁の四コマ漫画を面白そうに読み出した。追及されても困るけど、もっと食いついてもいいんじゃないか?
昼食時のファーストフード店はほぼ満席で、まぁ今日は休日だから座れただけでもめっけもんだ。二人して期間限定のバーガーセットを頼み2階の隅っこの席にトレーを置いた。
先日ついに長年の気持ちを桃に打ち明けたら当然ながら色好い返事はもらえなく、かといって嫌われてるわけでもなく桃に恋人がいるでもなく、ていうか本気にしてもらえず。でもまだまだチャンスはありそうなので俺は開き直って押しまくることにした。諦められる恋じゃねぇんだからそうするしかない。桃しか欲しくないんだからしょうがない。
しかし俺の前途は多難な様相を呈してて早くも崖っぷちに立っている。本日オフが取れたから早速デートに誘ったら桃は海でも水族館でも映画でもなく近くの本屋に行きたいと言った。今は別にどこにも行きたい所はない、とLINEの返信までもが淡泊だ。どこかあるだろと食い下がったら俺んちで俺の母親と御茶したいととんでもないことを言ったのでもう本屋を選ぶしかなかった。嫌がらせかよ。何が悲しくて母親と御茶しなきゃなんねぇんだよ。しかも最悪なことに二人で本屋に行ったらたまたま今日発売の週刊誌に俺の熱愛(?)記事が載っていて、まるで浮気がバレた夫みたいになっている。つくづくチャラい見た目の自分が悲しい。こんなにも清廉潔白なのに世間は遊び人の日番谷冬獅郎を仕立てたがる。告白したての俺にとってこの汚名挽回は骨が折れる。ったく、こんな女知らねぇんだよ勘弁してくれ。テーブルの上には桃が買った週刊誌が拡げられ、俺はまったく食欲が出ない。何も昼飯を食べながら読まなくてもよくね?なんでこんなの買ったんだよ、見たくねぇんだよ、まるで俺が不誠実な男みたいじゃないか。神に誓ってもいい、俺は桃一筋だ。


「……桃、本当にこれは偶然なんだ、周りにスタッフも沢山いたし、」
「ふふ、分かってるって。シロちゃんは昔からモテたんだから今さら熱愛報道の一つや二つ驚かないよ。」
「あ………そう………、いや!大事なのはそこじゃなくて、この記事は嘘っぱちなんだ!信じるな!」
「うん、分かった。」
「あ…信じてくれるのか?」
「うん、シロちゃんがそう言うなら信じるよ。」
「……………ならいい。」
「ね、この猫漫画3巻まで出てるって。さっきの本屋で買えばよかった。すごく面白いよ。シロちゃんも読んでみてよ。」
「………………。」


本当に分かったのか?桃はあっさり頷いてくれた。あっさりし過ぎてて俺のことなんか然程興味はないのかと気落ちするくらいあっさりあっさり。もう少し、こう、なんていうかな、疑いの目を向けるとか告白したクセに!と拗ねてもいいと思うんだが。桃の中の俺への熱量ってほんとに恋愛じゃないんだなと思い知らされる。俺の記事より猫漫画の方に食いつかれると悲しいんだが。なんだか虚しくて八つ当たりのようにベーコンバーガーに噛みついた。てやんでぇ、馬鹿桃、こんなとこにまで素直さを発揮しなくてもいいじゃないか。
桃の中の俺は弟だ。弟が誰と付き合おうが姉貴には関係ないよな。桃が実の姉貴ならこの反応は自然だ。
雑誌から顔を上げた桃がゴリラのように食う俺を見て優しく微笑んだ。ほっぺにマヨネーズがついてるよと手を伸ばしてハンカチで拭いてくれる。慈愛の笑みが昔は嬉しかったが今は邪魔だ。つうか他のやつにもこんなことしてねぇよな?誤解されたらどうすんだよ。


何でも器用にこなす俺。常に冷静で感情に流されることはない。そんな人気者の日番谷冬獅郎が、華やぐ芸能界にいながら一般人の小さな女の子に振り回されているなんて笑い話だな。でも顔もスタイルも完璧なやつらより太陽の光を浴びて笑ってる桃の方が眩しくて目が離せないんだ。誰よりも輝いて見えてしまうんだ。やっぱりおかしいのかな俺。それかあれか?生まれたての雛が初めて見たものを親だと思うあれか?刷り込みってやつ。俺はきっと初めて見たものが桃だったんだだからこんなに桃を追いかけちまうんだ。
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