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□470000h感謝小話「 インプリンティング」
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*1p目はsssの再掲になります






同窓会の帰り、駅から家までの短い距離で、つい口をついて出てしまった。


「俺にしとけよ。」


一瞬しまったと思ったけれど、もうどうとでもなれと覚悟を決めたのも確かだった。



一年ぶりに集った仲間達の近況は実に様々で、留学する者や薬指に指輪を光らせる者など其々の道を感じさせられた。見飽きる程ずっといっしょだった桃も大学生となり、俺は芸能界へと道を違えた。それを今は後悔している。
もともとなりたくてなった俳優業じゃねぇ。街で声をかけられ雑誌に載ったら桃がとても喜んでくれたから調子に乗っただけだ。運よく人気が出て辞めるタイミングを失っただけでほんとは離れることなく彼女の隣にいたかった。だからほら見ろ。ほんの一年、目を離しただけで桃の口から他の男の名前が出るようになっちまった。何が優しくて大人だ頼りがいがあるだ。俺以外の野郎のことで乙女な顔する桃なんか見たくなかった。ちくしょう、こんなことなら芸能界なんか辞めてやる。
今夜の俺はやさぐれて何杯飲んだかわからない。完全に酔ってしまった俺はいつもの自分が取り繕えなくて、ぼんやりしながらも本音が口をついて出るのを止められない。アルコールが入って機嫌よくなっている桃には悪いが夜道に男と二人きりだというのにポヤポヤ笑ってまるで警戒しない姿に苛立った。
俺だって男だぞ。お前に手を出したって不思議じゃないんだ。芸能人に憧れるように年上の男に歓声をあげてるくらいなら目の前の俺を見ろ。俺はずっとお前だけを見てんだぞ。


「そんな奴やめて俺にしとけよ。」



もう一度、腹に力を入れて真面目に言った。けれど酒の入った俺の言葉を桃は全然本気にはしてくれない。


「あはは、嫌だよ。日番谷冬獅郎様の彼女になんかなったら殺されちゃう。」
「おい、冗談じゃねぇぞ。」
「シロちゃん、彼女がいるのに他の子を口説く人って最低なんだよ?」
「俺は誰ともつきあってねぇよ。」
「はいはい。」
「本当だからな!」
「そうとう酔ってるよね?」
「桃!」
「あー、早く帰ろうね。」


爪が食いこむほど拳を握る。
本当に誰にも興味持てないんだ。桃にしか興味を持てない欠陥人間なんだ。だからこんなに必死になってるっていうのに三流ゴシップのせいで信じてもらえない。


「なぁ、どうしたら信じてくれるんだ?」


俺は一歩二歩と距離を詰めた。へらへらかわすその表情を消すにはどうすればいいんだろう。
更に一歩二歩。


「俺は本気なんだぞ。こっちを見てくれ。」
「シ、ロ…ちゃ……。」





俺は彼女の手首を捕った。




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