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□410000h感謝小話「簡単に説明できる気持ちじゃない」
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*原作大人日雛








雛森に好きだと伝えたら私も好きだと返ってきた。
勝算は五分五分で、一か八かの賭けに出たら総取りの大勝利。拳を突き上げ閧の声をあげる俺を誰が止められようか。苦節ン十年、実に長かった。自分の気の長さも雛森の鈍さにも驚きだ。
感慨ひとしおだがそんなことはどうだっていい。耳までも染めてはにかむように笑って、花開き始めた少女みたいに雛森は俺の胸を熱くさせた。これからは思う存分彼女を見つめても誰にも文句は言わせない。彼女を盗み見る日々は終わったのだ。
そうして付き合い始めた俺達だけど彼女は胸を熱くさせるには止まらず、毎日俺を焦がして燃やし続ける。



















「雛森…好きだ…。」
「あたしも……好き……、」


意識も朦朧に呟いた彼女の口に吸いついた。呼吸も許さないような深い口づけが苦しいのか背中に爪を立てられて何度となく細かな痛みが背中を走る。


「や、息、できな……ん、」


雛森の手が俺を押す。邪魔なそれを秒で払って覆い被さった。
涙目で訴えられても余計に昂ぶるだけなんだ。俺は頭を押さえつけると文句も言わせぬくらいのキスをした。羽交い締めにしたまま突き上げて雛森の中に俺を浸透させる。
言えるもんならもう一度好きだと言ってみろ。
乱暴な気持ちのままに彼女を思い切り揺さぶった。






付き合い始めた俺達は側から見れば幸せなカップルだろう。長年の想いが実って俺は幸せの絶頂にいると思っていた。もし彼女に受け入れられたなら毎日顔を見て声を聞いてキスをして飽くことなく抱いて一生護り通す、そんな夢が現実になった。でも、雛森を側に置いても彼女と肌を重ねても、俺はまだ満たされない。彼女は俺を抱きしめてくれるけど、笑いかけてくれるけど、まだ本当の俺を解っちゃいないかった。


「好きだ、好きだ、もっとくれ、」
「んぅ…」


汗が彼女の上に落ちる。肌をぶつけあう度に部屋の温度も上がっていく。息も絶え絶えな雛森はこんな俺をどう思っているんだろう。
口を開きかけた雛森に何も言わせずにそんなことを思う。「あたしも」だなんて返事は聞きたくない。お前が俺の本当の想いを解るわけがないんだ。この気持ちがただの恋愛感情で収まるわけがない。お前のような綺麗な感情じゃないんだよ。優しくもないんだ。俺のはもっとドス暗くて捻れたもの、そう、ヘドロでできた底無し沼だ。想像もつかないだろうな。でも、この積み重なった想いは簡単に理解されちゃ困るんだ。「好き」?そんな頬を染めながら言えるような愛じゃない。とても伝え切れる代物でもない。俺の気持ちはお前のとは違うんだ。同じと思わないでくれ。


「お願い、もう、やめて、」
「嫌だ。」


間髪入れずに返事をしたら逃れるように雛森が仰け反った。滲む涙さえ愛しくて汗ごと舌で掬ってやった。また締め付けがキツくなる。やめてほしいのはこっちだよ。俺を捕まえて離さないのはどっちだよ。もうこれ以上狂いたくはないのに身も心も焦がされて灰になるまで燃やされる。
逃がさない。
絶対に逃すもんか。
優しい気持ちもふっとんで彼女に執着する残忍な獣となる。
ごめんな、けど諦めてくれ。
意識を失った手がぱたりと落ちる。荒い呼吸のみで動かなくなった雛森を見て、やっと僅かに理性が戻った。
いつになったら満たされるのか、我が事ながら途方にくれてしまう。このままじゃ、いつか俺は彼女を食ってしまいそうだ。
どうすればいい?
これ以上溶けあえないのにまだ足りない。
遠のく意識の中で答えの見えない問いをする。俺は倒れるように雛森の横に寝転んだ。





簡単に説明できる想いじゃない。




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