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□370000h感謝小話「被虐性欲」
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季節は巡り、大人になっても雛森は雛森だ。お節介で思いこみが激しいのはきっと一生直らない。人の気持ちが計れないやつは人に優しくしようなどと思ってはいけない。あいつは俺を勝手に理解して傷口に塩という名の薬を塗る。


「日番谷君?何かあったの?」
「雛森……。」
「なあに?話して、ね?」


夜桜でも見に行かないかと誘いに来たんだ。柄にもなく。
溜まりに溜まった気持ちが膨らんで、少しでも放出しなきゃ眠れない。
十番隊の裏庭に咲く桜が今年一番の見頃となった。一人で見るには惜しいくらいの綺麗さで、雛森に見せたらきっと喜ぶだろうと思ったら胸がはち切れんばかりに膨らんだ。膨らんで、膨らみすぎて苦しいくらいになったからこんな夜に来ちまった。桜を見ながら二人で歩けば膨張した気持ちもガス抜きできると思ったんだ。けれどいざ彼女を前にしたら口は急に重くなり、とんでもないことを口走ってしまいそうで上手く誘えない。


「雛森、あのな……。」
「ん?」
「その、」
「なにか用事があるの?」



下から覗きこむようにして俺を見る。成長してから知った、人を見るときの彼女の癖だ。雛森の大きくて澄んだ瞳に俺が映る。清冽な水面に惹かれて見つめ返せば穢れた男が歪に見えた。瞳に映されたが最後、忽ちのうちに引きずりこまれて深い水底へ沈められてしまいそうだ。
俺は舌打ちした。こいつは今まで自分より背の高い者にこんな上目遣いをしていたのかと思うと無意識も大概にしろと怒りたくなる。完全に誘っているじゃないか。時と場合によっちゃ申し開きが出来ねぇぞ。
雛森の目は俺の視線を捕まえると手加減なく引きずりこんで離れられなくする。
俺は柔らかで温かな頬に手をやった。抗えない力がそうさせる。雛森は不思議そうにしながらもくすぐったさに首を竦めた。
きめ細かな肌は男の俺とは大違いだ。


「大丈夫?なんか変だよ?」



雛森、俺はお前が嫌いなんだ。
俺はいつまでも可哀相なシロじゃない。一人でも寂しくはないし突き飛ばされても転ばない。悪態をつかれても傷つかないし怪我をしても治療できる。なのにお前は決めつけて、ガキの頃と同じように俺をぬるま湯に浸けたがる。


好きなんだ。
そう言ったら何て答えてくれるだろう。


「どうしたの?上がってお茶でも飲む?」


こいつはちっとも優しくない。
こんなにも膨らんだ気持ちをもて余しているのに姉のように心配する。
勝手に俺を決めつけて検討違いの理解を深める。部屋に入れたらどうなるかわかってるのか?きっとお前を泣かせちまうぞ。
獲物を捕まえただけで放置する、お前はたちの悪い蜘蛛だ。でももう俺はお前の巣なんか破れるほどに大きくなった。強引に力を振るえば巣もろともお前を壊すことができるんだ。だから安心するな気を許すな。俺の手を取って笑うんじゃない。


「どうぞ入って、日番谷君。」




大っ嫌いだ。
なぜ俺の気持ちが解らない?
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