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□350000h感謝小話「drive of the night」
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*日雛パロ



高校を卒業して1年。大学生にサラリーマン、専門学校生にフリーター家事手伝い。たまに集まるクラスメイト達は様々な肩書きに富んでいて、その肩書きも半年前とは違っていたり相変わらずだったり。


駅前の繁華街、雑居ビルに入った居酒屋で、久々に会った面々はどれもこれも元気そうだ。
でも、とバカ騒ぎしている元クラスメイト達を一歩引いた目で眺める。あいつらも実際にはそれぞれ大変なのかもしれない。口に出さないだけで会わなかった半年の間にドラマみたいな経験をしているやつだっているんだろう。生中片手に笑っている同級生だって泣きたい夜を過ごしていたりするんだろう。人生色々だもんな。


「そういえば雛森、お前この間赤ん坊抱いてなかったか?あれお前の子?」


唐突に阿散井の声が店に響いた。かなり酔いが回っているのか声のボリューム調整が効かないらしい。デリカシーのない質問が店内を駆け巡り、俺は飲んでいたノンアルビールを噴きかけた。


「あ、あたしの子なわけないじゃない!あれはお姉ちゃんの子よ!」
「桃の子供が赤ん坊だったら前回集まった時、桃のお腹が大きいはずでしょーが、阿散井馬鹿なの?馬鹿だったわね。」
「うるせぇ!いやに慣れてたからそう見えたんだよ!」


テーブル席のあっちとこっちで喚きたてるがこの店全体が騒々しいから多少煩くしても睨まれない。クラス会も第3回目ともなると幹事も学習するようだ。
最初のクラス会は高校を卒業した直後。この間卒業の打ち上げをしたばっかなのにと懐かしさもへったくれもないクラス会をした。2回目はその翌年の正月休み、女達は化粧を覚え、野球部のやつらは髪が伸びていた。フリーターの肩書きを背負うやつもちょこちょこ現れ、新しい世界に飛びこむことのたいへんさを見せられた。そしてまた半年後の今日、3回目が開かれた。お盆なら働いてるやつも休みだし学生は夏休みだし集まりやすいという理由らしい。今後はこのペースで集まろうぜと誰かが言ったけれど、たぶん集まる間隔は長くなる。集まる人数も減ってくる。仲間が薄情になったわけじゃなく、学生の時のように共有する時間が減ったんだ。時間の使い方が皆違ってくるのだから都合がつくやつ、つかないやつと別れるだろう。俺達は同じ道を歩いていない。大木が枝分かれするように皆様々な方向を向いている。


「そういえばサッカー部の木下、あいつ結婚したらしいよ?」
「ええ!誰と⁉」
「ほら、1年の時からつき合ってた彼女がいたじゃない?その子とだって。」
「へぇぇ。」


どこに感心しているのか分からないが大袈裟に相槌をうつと雛森はトロピカル色した甘そうなカクテルを口にした。おいおいそれ喉越しがいいからってジュースじゃねぇんだぞ、大丈夫かよ。内心はらはらしながら、でも口には出さずに俺は枝豆を摘まんだ。
そう、俺とあいつの道も同じじゃない。きっとお互いの知らない人間関係が築かれた。それは仄かな切なさと苦しさを連れてきて、俺に下を向かせてしまった。八つ当たりのように枝豆を指で弾いて皿に捨てる。
店の端っこのテーブルから隣のテーブルの端っこの雛森を盗み見た。高校時代のトレードマークだったお団子頭は卒業後すぐにやめたらしい。肩にかからない程度のボブで横髪を耳に掛けている。短く切り揃えられた前髪のせいで笑うと大学生だというのに高校の時よりも幼く見えた。ちび○る子みたいだ、なんて正直に言ったら噛みつかれるな。
幼稚園の頃から見ていた幼馴染みは出会う度に雰囲気を変えてくる。
昔はそんな彼女の変化を気にもとめなかった。変化に気づいても明日また会えると思っていたから貴重でもなかった。当たり前の日常に胡座をかいて無意味に毎日を過ごしていた。卒業して1年、もしもタイムマシンがあったなら、そんなミラクルを何度も夢みた。


目の前に爆弾みたいな唐揚げが運ばれる。男の拳ほどもある大きさに女達が驚きの声をあげている。店の体育会系御用達の看板は伊達じゃなかったということか。目の前に置かれた爆弾唐揚げに雛森も目を丸くした。お前唐揚げ大好きじゃねぇか。ほんとは喜んでいるだろ。


「これ一人一個?食べられないよ!お腹いっぱいになっちゃう!」
「嘘つけ、余裕で食えるだろ。」
「ちょっと日番谷君、聞こえてるんですけど?」


やべ、そっぽ向いて呟いたのに聞こえてた。俺の知ってる雛森は地獄耳だっけ?内心の焦りを隠して幼馴染みを見ればにこにこ笑顔と目があった。憎まれ口なんか全然気にしてない顔。この集まりが楽しくてしかたないって顔をして、幼馴染みからの口撃さえも今の雛森には楽しい材料なんだろう。俺を含め周り中に笑顔の花びらを巻き散らかしている。
その笑顔は変わっていない。でも俺のものではないと思うと胸が締めつけられる。誰かのものなのだ。その現実が俺を痛めつける。
密やかな苦しみに俺はグラスに口をつけるフリをして目を逸らした。
この痛みは卒業してから定期的に訪れている。





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