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□340000h感謝小話「解錠」
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いかんいかん、この年頃の男の子ってあまり質問されるのが好きじゃなかったりするんだよね。弟曰く、親より五月蝿い姉貴とはあたしのことだ。平素の弟の態度が脳裏に浮かぶ。うん、自分が休みだからって仕事してる人の邪魔しちゃダメだ。


「あの………。」
「あ、はい、認めね。」


今日はかなり暑い。バイト君の顔も赤くなっている。早く荷物を受け取って彼を解放してあげなくちゃ。あたしは判子を出しながらバイト君の顔を見た。
少し帽子を浮かした彼の頬に汗が伝っている。だって暑いもの。こんな暑い日もこの子は働いてるのかと思ったら何かあげたくなってしまう。確か冷蔵庫に冷えたカフェオレがあったような。


「すごい汗だね、ちょっと待ってて。」
「あの!」
「はい?」


台所へ行こうとしたあたしを呼び止める大きな声。初めて聞いた彼のしっかりとした声に足が止まった。あ、もしかして急いでいるとか?「あの、お気遣いは結構です」「いえ大した物じゃありませんから」「いえ困ります」「ただの缶コーヒーですから」「そう…ですか?じゃあ……」「はいどうぞどうぞ」な会話する?


「あの………今日お仕事休みなんですね?」
「あ、はい………?」
「今…………一人ですか?」
「え?ええ………。」


また帽子を浮かせて彼が腕で汗を拭った。それをきちんと被り直すとまっすぐに見据えられる。


「そう言えば荷物…。」


目の前に立つ彼の足元に視線を走らせる。今日はいったい何の届け物なのか、よくよくバイト君を見れば手ぶらじゃないの。足元にも何も無い。玄関脇に年季の入った傘立てがあるだけだ。はて?誰が何を注文したの?
首を捻るあたしを前にバイト君は帽子を被り直したかと思えばやっぱり脱いで、脱いだかと思えばやっぱり被り、と落ち着かない。結局帽子をズボンの後ろポケットにつっこむと銀髪をガシガシ掻いた。


「……俺、日番谷冬獅郎って言います。」
「あ、ども…。」
「潤林大学の四年、法学部です。家族は父母と姉が一人あと猫を飼ってて、皆んな田舎に住んでます。趣味は読書で時々友達に誘われてサッカーもやったりします。」
「へぇ……。」


っていやいやいやいや、これ何の自己紹介よ?突然プロフィールを述べられてもリアクションに困ります。


「あの、判子は……。」


結局配達物はなんなんだ。戸惑いながらシャチハタを見せるといきなり印鑑持った手首を掴まれた。


「ひゃ?!」
「今日、は、判子はいりません。」
「ふぇ?」



じゃああなたは何しに我が家へ?


「……俺のこと、もっと知ってほしいんです。」
「はぁ…。」
「あなたのことをもっと知りたい。」
「え、あの、」
「今日は俺の気持ちを届けにきました。」



オレノキモチヲトドケニキマシタ!?
赤い顔できっぱりと言い切った彼は瞬きもせずにあたしを見下ろした。背の高い彼からすればあたしはチビで、どうしたって見下ろされる。威圧感ハンパない。
言いたいことは言ったとばかりに深く呼吸をした彼とは対照的にあたしはアワアワ。今度はお前の番だと言わんばかりの空気に緊張した。判子を持つ手に汗がすごい。逆上せそうなくらい顔に血が集まってる。


「因みに返品不可能です。」
「ひぇ、」




今年の夏はたぶん暑い。







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