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□340000h感謝小話「解錠」
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*現パロ日雛











あたしんちの家族はみんな忙しい。
両親は共働き。弟は大学とバイトの往復。あたしは安い時給でこき使われるフリーター。家族全員、日々時間に追われる毎日だ。休日はほぼ疲れた身体を癒すためだけに消化される。友達と遊んだり映画を観たり、年頃の女の子ならよくある休みの過ごし方とはここ最近まったくの無縁状態。


時間が無いということは買い物なんかもネットで済ますことが多く、商品を家まで届けてくれる宅配便はとてもありがたい。特に弟の宅配利用頻度はえげつなくてゲームに漫画にライダー復刻版の変身ベルト、 etc.ありとあらゆるオタクグッズが毎日届く。バイト代をすべて趣味に注ぎ込めるって羨ましいよ。でも梱包に使われたダンボールや包装紙がゴミになるとこの間お母さんに怒られていたっけ。あの子自分で片付けないからね。いやそれよりも早くコンビニ受け取りにしてくれと言いたい。毎日毎日来てくれる宅急便のお兄さんが可哀想で可哀想で。時間指定にもかかわらず留守しちゃってたりしたら日に何度も足を運ばせることになり恐縮すること頻りだ。
あたしがそれを言うと弟は「だってそれが仕事じゃん?」ときたもんだ。っかー!我が弟ながら情け無い!こんなことを言う子にいつからなっちゃったんだろう!この暑い中、汗をかきかき荷物を届けてくれる人に悪いと思わないのかね?思ってないから言えるんだろうね。こんなブラック客がブラック企業を育てるのよ。でなきゃあたしは専門学校卒業後三カ月でフリーターになってはいない。



梅雨の中休みの蒸し暑い午後、ピンポーンとチャイムが鳴った。
今日のあたしはバイトが休み。午前中はしこたま睡眠に費やし昼前に冬眠明けの熊みたいに起きてきてそれからお母さんに頼まれた掃除洗濯朝食の後片付けに風呂掃除花壇の花の水やり。なにこれあたしいつから主婦になった?
一通りの家事をこなしたら少し遅めの昼食をとり、これから昼寝でも(また寝るんかい!というツッコミは聞きません)と枕を持ったところだった。

インターホンを取り玄関先の人物を確認する。某猫のマークが目印のいつもの宅配便の人だった。大方弟か父がまたネットで何か頼んだのだろう。「宅配便です」の声に返事してマンションの施錠を外すとあたしは印鑑を持って玄関へ。

「はーい、ご苦労様です。」
「…………ちはっす」



ほぼ毎日届けてくれるこの彼は、弟くらいの年の子だ。銀髪に緑の目をしたとても綺麗な子。我が家は彼の担当エリアなのか、かれこれ1年ほど通い続けてくれている。それこそ雨の日も台風の日も吹雪の日も。
余りにも申し訳なくて一度缶コーヒーをあげたっけ。労いにもならないが汗だくで働く彼が健気に思えたのと同じくバイトで励む者として細やかなエールのつもりだった。「同志、お前もか。頑張れよ」みたいな。
けれどそれからだ、この無口そうな彼と時々会話するようになったのは。

聞けば大学4年らしい。地方から出てきているらしい。親の仕送りだけじゃ足りなくて運送屋のバイトで生活を凌いでいるという。とつとつとした話し方は雄弁とは言い難く、無表情に見下ろされて、何となく彼の人付き合いの不器用さを感じた。


「毎日暑いね。」
「……っす。」
「大学は忙しい?」
「いや…まぁ、はい。」
「あ、もしかして就職活動で忙しいとか?」
「………っす。」
「田舎に帰るんだったっけ?」
「……………………っす。」
「早く決まるといいねー。」
「まぁ……。」
「何系を目指してるの?………って質問責めだね、あたし。」
「いや、大丈夫っす。」


真面目そうな彼が弟と被って見えて、ついついお節介お姉さんと化してしまう。あれこれ根掘り葉掘り尋ねていつも弟にうざがられているのを思いだし、あたしは口をつぐんだ。





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