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□20180117day「秘密のショット」
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*原作日雛




新人隊士にヤル気を起こさせるため憧れの上司と接触させる。キツい汚い気持ち悪い苦しい怖い、と4kも5kも揃う死神稼業、一年目の新人にとって生の現場は院で学んだことが全部吹っ飛ぶくらいたいへんだろう。漸く二年目に入ろうかというこの時期、鬱になる新人も多い。理想と現実に苛まれ脱落していく者が多い時期だ。そんな新人君にほんの少しご褒美をやり、且つ悩める同朋にエールを送る、要するに自隊の上司と新人の対談。そんな企画らしい。


「レフ板もうちょっと前へ。あ、マイクは少し離れて。」
「テーブルに花でも飾りますか?」
「いいわね、あたしも殺風景だとは思ってたのよ。」


松本が生き生きとして指揮を執る中、十番隊の来賓室で五番隊副隊長とその新人隊士がテーブルを挟んで差し向かいで座っている。眩しいくらいのライトを浴び、様々な角度からシャッターを切る檜佐木に二人とも緊張した面持ちだ。


「そろそろ始めましょうか。」
「なんだか緊張します…。」
「お…ぼ、僕もです。」
「新人はともかく、雛森が緊張してどうするのよ。」
「だって対談って言われても何を話せばいいのか…。」
「大丈夫、上手く質問で誘導していくから自然にして。」
「う、わ、わかりました。」


松本の言葉に頷くと雛森は肩の力を抜いた。対面に座る、雛森以上に緊張している自分のところの隊士に微笑むと何やら声をかけてぎこちないながらも笑いあう。
おい、そんなモブに笑顔を見せんじゃねぇ。俺は部屋の壁に張り付いて腕を組み、このどうでもいい企画を眺めていた。最近の瀞霊廷通信はネタ切れか?なんでわざわざ雛森をモブ隊士と引き合わせなきゃならないんだ。見ろあの男の顔を。鼻の下が伸びきっているじゃねぇか。憧れの上司と話せて喜んでいるというより地下アイドルに入れ込んだドルオタが偏執的な愛を叫んでる様にしか見えない。おい松本、もっと二人の椅子を離せ。雛森にドルオタの唾が飛んだらどうする。
雛森と新人の会話は出だしこそもたついたものの松本が二、三の質問を投げて会話を転がしてやると二人はスムーズに話しだし、時折笑い声をあげながら対談らしい形になってきた。


「隊長、今日は来賓室を貸してくださってありがとうございました」


二人の話が自然に流れだした頃合いを見計らって松本が抜けてこちらへきた。対談の録音とカメラは檜佐木に任せたらしい。



「ったく、五番隊の連中なんだから五番隊でやれよ。」
「平子隊長に急な来客が入っちゃって使えなくなったんですよ。それに隊長だって雛森がどんな対談するか気になるでしょ?」


それはそうだ。しかし上司と部下の対談なんだから別に雛森でなくてもよくないか?三席や四席でもいいだろが。そもそも五番隊でなくてもいい。


「むさ苦しい男同士の会話なんて載せたら部数が伸びませんよ。それにもし十一番隊チョイスにしたなら対談という名の暴力が繰り広げられそうですし十三と六番隊にすればほぼ育児トークで終わります。それに雛森を載せると単純に売り上げが伸びますからね。」


一番最後の理由が八割方を占めてそうだな。


「あ、そろそろ時間かしら。」
「終わりか?」
「ええ、後は二人のツーショットを撮って終了ですね。修兵〜、その二人前に出て来てもらったら?」


は?ツーショット?いらねぇだろ!
思わず腕を解いた俺は身を乗り出した。明るいライトを浴びながら雛森がモブと並んでにこやかに立っている。檜佐木に指示されるがままに立ち姿から男が椅子に座り、その後ろに立った雛森が男の肩に手を置いて。

ああああふざけんなよ!そんなやつ触るんじゃねぇ!近い近い顔近い!俺の雛森にむさ苦しいのが染る!離れろよ!


「はいお疲れさま〜。」
「お疲れ様でした。もう日番谷君うるさいよ、集中できないじゃない。」
「なに言ってんだ、こんな訳のわからん企画に乗りやがって。」


だいだいお前は常日頃からサービス過多なんだよ。あちこち愛想を振りまかず俺だけに絞りやがれ。
近づいてきた雛森に俺は不機嫌を隠さない。彼女の笑顔が好きなくせに簡単に笑ってほしくないと思っている。我ながらややこしい性格だな。雛森を可愛いと思うのは俺だけでいいのに回りはお構いなしに彼女の魅力を口にする。


「…おい、今夜部屋に来いよ。」
「う…き、昨日も行ったけど?」
「毎日来りゃいいだろが。」
「は…はい。」


こんな日は目一杯啼かせなきゃ気がすまねぇ。
雛森の耳元で囁けば、彼女は赤くなりつつ頷いた。
ああ、この顔は俺だけのもんだ。絶対誰にも見せてやらねぇ。
パシャ。


「あ?」
「はい、オマケのショットいただきました〜。」



にっ、と笑う檜佐木へ俺が飛びかかるのに1秒も要しなかった。




 

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