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□クリスマス日雛「赤い糸が巻きついて」
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シロちゃん、と囁いて桃が俺の髪を触る。油断した、ちょっと横になればすかさずこれだ。目を閉じたまま内心舌打ちをした。


昼飯の後、少し寝ようと長椅子で横になっていると桃も昼休憩なのか軽い足取りで遊びにやってきた。執務室に入り俺が寝ているのに気づくと足音をたてぬよう、それまでとは足取りを変えてそろりと近づく気配。寝落ちる前の俺は眠気も覚めて狸寝入りで桃の様子を伺った。


「疲れてるんだねシロちゃんは。」


ギシ、と長椅子が軋む。桃が枕元に座ったのだ。


「もうすぐクリスマスだよ?シロちゃんは何がほしいのかな?」


起こさぬよう、そっと桃が髪に触れる。前髪を後ろへ。横髪を耳元へ。ゆっくりと優しく、くすぐるように控えめな接触は、逆にとても艶かしくて。ああ、もしかして彼女を抱くとこんな風に触れてくれるんだろうか、なんて思っちまった。


桃を抱く。


彼女への恋情を自覚した頃に生まれた願望は年々膨らみ、熱をもって俺を内側から焼いている。運命の赤い糸を夢見ていた頃はまだ純粋だった。いつか桃と、と想いながら彼女の純潔をも大切にしたかった。



「手袋がいいかな?今の穴が開いてるよね?」


姉気取りというよりも母親気取りなんだろう。桃の声はどこまでも柔らかく、眠る赤子に話しかける母親そのものだ。また彼女の指が額に触れた。
おい桃、俺はお前の子供じゃねぇぞ。弟でもねぇ。お前は慈愛の心で触れているのかもしれねぇけどな、こっちはさっきから心臓が煩くてかなわねぇ。男ってもんはな、惚れた女に触られただけで誤解しちまう生き物なんだ。お前、俺のことなんとも思ってねぇんだろ?だったら気安く触るんじゃねぇ。
俺の赤い糸は縺れに縺れ、どこに繋がっているのかわからない。
桃の独り言はまだ続く。俺は寝たふりが辛くなってきた。


「何色がいいか訊かなきゃね。」


指が優しく耳を掠める。何度も髪を往復する。俺は瞼を閉じたまま彼女の白く細い指が俺の胸を這う妄想にかきたてられた。白い蛇のように桃の手が背中に回り俺の身体を締めつけて、彼女を揺らした数だけ赤い筋が背中に走る。俺を絶頂へと昇らせて永遠に降ろしてくれない、そんな想像。最低だな。
俺の頭の中で自分が丸裸にされてるなんて露ほども思わずに、桃は子守唄でも歌いだしそうな声音で話しかけてくる。こんな聖母のような幼馴染を俺は欲望のままに抱きたいと思っている。護りたいと願うのと同じくらい思っている。桜色の唇に吸いついて折れそうに細い腰を引き寄せて、見下ろされる側から見下ろす側に代わるんだ。下に組み敷いた桃が弱々しく俺の名前を呼ぶ、きっとそれだけで昇天しそうなくらい感動するだろう。たまんねぇ、こいつの味が知りたくてたまんねぇ。もう限界だ。

「違うもんがいい。」
「え?」
「独り言でけぇ。」


髪を梳く彼女の手を取って目を開けた。突然だったからか大きな目が余計に大きくなっている。


「ごめん、起こしちゃった?」
「始めから起きてたっつうの。」
「だったら直ぐ目を開けてよ。」
「…なぁ、俺にプレゼントくれるのか?」
「え?あ、うん、そのつもりだけど…。」


彼女の手を捕まえたまま起き上がる。長椅子に膝をついて桃と目線を合わせたら願望のままに顔を寄せた。



「俺、欲しいもんがある。」
「そうなの?なに?言ってみて?」
「桃。」
「ん?」
「桃が欲しい。」
「え?」
「クリスマスプレゼントじゃなくて今ほしい。」


返事を待たずに桃の項に手をやった。すかさず引きつけて思いきり唇を押しつけた。もう我慢なんかするもんか。もっと早くこうすりゃ良かった。




赤い糸、縺れに縺れたから俺は途中でちょん切った。
後は強引に彼女の糸と繋ぐだけ。






 

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