ss4

□360000h感謝小話「落ち葉は土に還る」
1ページ/2ページ


*原作日雛


瀞霊廷の中にだって並木道くらいはある。春は桜の庭園。夏は岩清水の渓流。秋は銀杏の並木道。因みに冬は朽木家の枯山水だ。


「ぎんなんが落ちてるよ。拾ってお婆ちゃんに持って行ってあげようよ。」
「婆ちゃんならとっくに拾ってるさ。」



季節は晩秋。
はらはらと風に振られた枯葉が落ちる。それらを足にしながら隣りで雛森のとりとめのない話が続く。婆ちゃんの茶碗蒸しは旨かったとか寒いと炬燵が恋しいだとか、記憶に残らないほど大したことない会話ばかりだが彼女とのこんなひとときは昔から好きだった。
だが、今は違う。緊張の欠片もない雛森と違って今の俺には余裕がない。
柄にもなく彼女を紅葉見物に誘ったのは言いたいことがあったから。赤、黄、茶、の色どりが美しいこの場所で大切なことを伝えたいと思った。


「それもそうだね。」


いつもの調子で雛森が笑う。
二人が立つ間にも枯葉が回りながら落ちていく。その向こうに見える雛森は背景に銀杏を背負ってて、まるで黄色い花に飾りつけられたようでとても綺麗だ。
雛森。今日、俺はお前に謝らなきゃいけないほど罪なことを言おうと思う。
できればこの笑顔を崩したくないが、俺はどうやら限界が来たようだ。

はらはら落ちる。
絶え間なく地面を埋めていく。
それらを踏みつけて俺達は進む。

この枯葉のように俺の雛森に対する想いは様々な色で埋められている。何年経とうが決して表には出さないつもりで内側に溜めてきた。表面上は色鮮やかさを保っているが掘れば掘るほど想いの色は濃く、黒く、汚れている。たとえ積もり積もってパンパンに膨れ上がってもそれらを抱えて生きていく覚悟はできていた。嘘じゃない。その覚悟を維持出来ると思ってたんだ。


「ほんと綺麗。今日は誘ってくれてありがとう。」
「…休みが重なって良かったよ。」


見事な紅葉を見上げて雛森が言う。俺は静かに拳を握る。足元で乾いた葉がどんどん重なっていく。


ずっと隠して生きていくつもりだったんだ。誰も困らせない自信があった。綺麗な部分だけを見せて取り繕った。
でも、ごめん。俺の想いはそんなに綺麗なもんじゃなかったみたいだ。
降り積もった落ち葉は一見美しく見えるけど、雨水に浸かり、陽の当たらぬ場所でひっそりと腐り、朽ちていく。自然の中ならそれは還元されていくのだろう。でも、俺の中では…。


「…日番谷君、なんだか様子がへんだね。悩みごと?」
「……お前に話があるんだ……。」
「なあに?」


握る拳を強くした。喉が渇いて唾を飲む。
雛森を無くしたくない。彼女は俺の生きる意味そのもの。
でも、ずっと抱えていくつもりだった気持ちは今や水を含んでとても重い。時が経ち過ぎて悪臭も放ってる。汚物のように変わり果てた鮮やかな落ち葉達を、もう俺は抱えていられなくなっちまった。
手が千切れそうに重いんだ。
目を背けたくなるほどどす黒いんだ。
鼻につく悪臭は息をしていられないほどで。
どうしようもなく胸が苦しくて苦しくて。


「何でも言ってよ。あたし怒ったりしないよ?」


握った拳を雛森がそっと取る。冷たい俺の手を温めるように両手で包んでくれる。
言おうか言うまいか。此の期におよんで俺はまだ躊躇う。
彼女の望む未来の俺はきっと優しくて頼りがいのある弟だ。出きるなら俺もそうでありたかった。
けれど辛いんだ、雛森。とても苦しいよ。でも困らせたくない。絶対に困らせるのは嫌だ。でもこのままじゃいつか酷い目にあわせそうで、俺はそれが恐ろしい。だから、取り返しがつかなくなる前に汚れた荷物を捨てたいんだ。
唇を噛むと嫌な味がした。
それを見た雛森が驚き、顔色を変えた。屈託無い表情は消え、憐れみの眉を寄せた。


「…日番谷君が辛いとあたしも辛いよ…そんなに深刻な話なの?あたしに何かできることはある?断らないから言って、どんなことでも受け止めるから。」


下から覗きこむようにして雛森が話しかけてくれる。甘やかすような響きに乗ってしまいそうになるが俺の口はまだ重い。雛森は困ったように首を一つ傾げると俺の手を引いて一歩下がった。


「ぎんなん拾おう。それで、拾いながら気が向いたら話してよ。」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ