ss4

□380000h感謝小話「明日は寝られない」
1ページ/1ページ




*日雛社会人パロ


同い年の日番谷君は大手商社の本社勤務。
大学を卒業して数年、後輩が出来て取引先の知人も増え、あたしの彼は少しだけ忙しくなった。
元々優秀な人だから出世も早いだろうと噂されていたのだけれど残業は毎日だし時々休日出勤だし、近頃二人で過ごす休みの日は借りてきたDVDを彼の部屋で観て過ごすばかり。どこにも出かけない。でもイチャイチャできるから特に不満は無い。
平日は帰宅の早いあたしが日番谷君の部屋へ行き、晩御飯を作り掃除洗濯もやってしまう。家事も料理も好きだからやっちゃうというのもあるけれど、仕事から帰った日番谷君をエプロン付けて迎えるのが新婚ぽくて好きだったりする。友達はそんなあたしを「まるで家政婦じゃん!」と怒るけど、どうやらあたしは好きな人のお世話をしたい人種みたい。椅子に置きっぱなしの上着をハンガーに掛けたり落ちてる靴下を拾って洗濯したり冷蔵庫に作り置きのおかずを作ったりカッターにアイロンかけたり……やっぱり家政婦さん?もしくはお母さん?
偶に自分でも怪しくなってしまうけど別に苦じゃないからいいの。
そんなあたしはコーヒー豆の卸会社に勤めるしがないOL。社長の趣味で始まったという、まだできて数年の小さな会社だ。基本、忙しいのは中間期末の決算月だけで後は毎月同じことの繰り返し。でも、そんなあたしでも偶に疲れる日もありまして。













今日は水曜、週の半ば。残業四時間で只今夜の九時を回ったところ。会社のエントランスを出て腕時計に目をやり、あたしは溜め息をついた。

今日の仕事キツかった………。

なんていうか足腰にきた仕事だった。配送車が事故を起こして納品するはずの商品がダメになったのだ。急遽社員が倉庫に走って取引先に届けたのだけど就業時間外の出来事ゆえ人手が足りずあたしも倉庫から積荷を出す作業に駆り出されたのだ。
ああ、早くヒールを脱いで裸足になりたい。タイトなスカートも脱いでシャワーを浴びたい。いつもなら日番谷君の部屋に帰るのだけど今日は倒れそうなくらい疲れてしまった。会いたいのは山々だけど今夜は自分の部屋に帰ろう。とても日番谷君が帰ってくるまで起きてられる自信がないや。


そうして帰宅して1時間、夕飯は簡単にお茶漬けで、お風呂もシャワーで適当に済ませ、後は眠るだけとなった時、スマホが軽く振動した。


「まだ仕事か?」
「終わらないのか?」
「もしかしていま帰ってる?」
「こら桃」
「無視すんな」
「何処にいるんだ?」
「迎えにいくぞ?」
「今日は来ないのか?」
「具合でも悪いとか?」
「おい桃」
「俺がそっちへ行こうか?」
「返事しろ」
「おい」
「桃」
「どうした?」
「もう寝たのか?」
「来ないのか?」
「桃」
「おーい」



えええ、お風呂に入ってる間にめちゃくちゃライン来てる!
ラインだけじゃなく通話もメールもワンサカきてて、そのすべてが日番谷君からだった。えげつない。
なにこれ、しつこいよ。
あたしは濡れた頭を拭きながら慄いた。1日行かなかっただけなのにこんなに質問責めにされるとは思わなかった。同棲してるわけじゃないんだからそりゃ自分ちに帰る日もあるわよ。
もしかして日番谷君の中ではあたしが彼の家にいるのが当たり前になっているんだろうか。あたしそんなに毎日入り浸ってる?


「仕事で遅くなったので今日は自分ちで寝ます、と。」


肩にタオルをかけたままで返信した。見直すとなんだか素っ気ないメッセージな気がして言葉を継ぎ足す。


「明日はいっしょに寝ようね」


ちょっと意味深?いや、そういう意味にとってくれてもいいんだけど。
スマホを睨んで自分のメッセージを添削する。外見とは真逆にガッツいている日番谷君はきっとこれを夜の御誘いだと勘違いするだろう。
ほらきた。
ぶぶ、と短い振動とともに勘違い君から。


「寝かしてもらえると思ってんのか?」


うわ、オヤジくさい。
暴食系の彼に笑って枕元にスマホを置いた。そのまま薄っぺらい布団に潜りこむ。
早く寝なきゃ。
明日は寝かしてもらえないらしいしね。



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ