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□20171217days「compass point」
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大人1人と子供2人。3人での生活が始まった。初日から数日間は新しい環境に慣れず、また珍しさもあって気持ちが落ち着かない桃だったが老婆はいつも優しくーー桃達が危険なことをしたら諫められたがーー冬獅郎も乱暴な振る舞いのない、どちらかと言えば大人しい子供で一安心をした。










桃といっしょに老婆の家に預けられた少年は名を日番谷冬獅郎と名乗った。肌は白く髪の色も白い、雪のような少年だった。桃のように黒髪黒目の者ばかりがいる村で冬獅郎は異質な存在だった。


「冬獅郎君、お婆ちゃんが畑へ行って野菜を採ってきてくれって。」
「わかった。」
「待って、あたしも行くよ。一人じゃきっと重たいよ。」


桃と冬獅郎がいっしょに住まうことが決まると老婆は直ぐに二人に潤林安での生活を教え始めた。霊圧のある二人は恒常的に食事をとらねばならない。山や川、田畑などで食べ物を採取したり栽培する術を少しずつ教えてくれる。もしも何らかの形で保育者がいなくなれば霊圧のある子供は自分で食料を調達せねばならないのだ。老婆は桃達が万が一、1人で生きていかねばならなくなった時の為に教えるのだと言った。老婆は霊圧のある子供の世話に長けた大人なのだ。桃達が来る前は2人の男の子の面倒をみていたらしい。1人は幼い頃、流行病で儚くなったがもう1人は大きくなると老婆の元を離れ同じように霊圧のある女性と所帯を持ったと目を細めながら話してくれた。霊圧のある子供のための里親である老婆の家に空きができた為、桃と冬獅郎はこの老婆の元へ送られたらしい。桃がそれを知ったのは後々のことだ。




「畑までの道は覚えた。俺一人で行ける。」
「もう道を覚えたの?冬獅郎君すごいね。」
「あんな簡単な道覚えられない方がどうかしてる。」
「む、あたしだって覚えてるもん!」
「昨日、帰れなくなったくせに。」
「と、冬獅郎君のいじわる!」


冬獅郎は桃と同じ年の頃だろうか。背丈は二人同じくらいだからきっと年はそう変わらない。けれど冬獅郎は何をするにも要領がよく頭の回転も早い。老婆に教えられたことを覚えるのに桃は2、3回かかるのに冬獅郎はいつも1回で覚え、完璧に仕上げてしまう。だからいつの間にか冬獅郎は何かにつけ桃に年上のような口ぶりをするようになった。もしかしたら桃よりも年上なのかもしれない。



「あ!待ってよ!冬獅郎君!」
「いっしょに来るなら早くしろよ。」
「もぉ!」


膨れる桃など構わずに冬獅郎は野菜を入れる籠を担ぐと待つ素振りも見せずに背中を見せた。冬獅郎は時間を無駄にしない。けじめがつけられる性格なのか桃と遊ぶ時は存分に楽しんで笑い声だってあげるのに手伝いとなると笑わない。昨日、近くの野原で二人遊んだ帰り、桃が摘んだ花に毛虫がついていてそれに気づいた桃が文字通り飛び上がって驚いたのだが、その様子が可笑しかったのか冬獅郎は腹を抱えて笑い転げていた。あまりにも笑い止まないから笑い上戸かと思ったほどだ。かと思えば老婆に言いつけられた手伝いは貫徹するまで無駄口を叩かない。疲れてくると直ぐに休む桃は何度も彼に睨まれた。
今日も置いて行かれまいと後を追い、共に畑まで行き野菜を採って来たけれど、冬獅郎はやはり収穫作業も手際が良かった。 桃は冬獅郎の半分ほどしか働けなかったが追い返されなかっただけで良しとしたい。
その帰り道。




「ねぇ、あたし思ったんだけど、冬獅郎君ってちょっと呼びにくいよね?」
「ああ?」
「だから言いやすいようにこれからはシロちゃんて呼ぶね。」
「ああ?!」
「こっちの方が可愛いし良くない?」
「嫌だ、止めろ馬鹿。」
「む、なんで馬鹿っていうかな?もう怒った。絶対にシロちゃんて呼んでやる。」
「勝手にしろ。その代わり返事はしねえ。」
「あたしのことは桃って呼んでいいからね。」
「………………。」
「シロちゃん、シロちゃん。ふふ、可愛いね。」



我ながら上手いと思ってしまった。たとえ冬獅郎が仏頂面でいてもこの子は「シロちゃん」なんだと思えば可愛く思えそうだ。
一人ご満悦に浸る桃に冬獅郎は苦い顔をした。





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