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□20171217days「compass point」
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流魂街には子供が一人で生きていけるような場所は無い。
子供は子供同士集まり、協力しあって生きる術を身につけるのだ。当然綺麗事ばかりは言っておられず、盗みや騙しは日常茶飯事。毎日を生き抜くため必死にならざるを得ない。



そんな苛酷な流魂街だが優れた指導者がいる地域は比較的治安がいい。物の流通にも決まり事を設けられ、集団生活においては党を作り組みを作り、配された子供の面倒は大人がみる。金銭の授受も正しく行われ、繁栄の目安である市もある。


西流魂街一地区 潤林安。

桃と冬獅郎が回された潤林安という場所は流魂街でも安全な方だった。周りの大人達はこれから住まう家を割り当てられる桃達を見て、この地にあてられて運がいいと何度も言った。同時期に来た子供は二人の他にも何人かいて、それぞれ別の家へ引き取られていった。それにも大人達は運がいいと言ったけれど初めて来た桃には何がいいのかまったく解らなかった。ただ同じ家に住むと言われた冬獅郎という子供と共に案内の男に黙ってついていくだけだ。


「今日からここがお前達の家だ。」



ぶっきらぼうに言うと案内役の男は一軒の家の戸を引いた。
桃と冬獅郎が地区の男に連れられてやってきたのは老婆が一人で暮らす家だという。厳つい男に「お前達はこっちだ」と威圧感丸出しで連れられてきたけれど小さな小屋のような家から現れたのは想像とはかけ離れた優しい雰囲気の老婆で桃は少し拍子抜けをした。もし鬼のような老婆だったら、と内心緊張していた桃はこっそりと肩の力を抜いた。


「いらっしゃい。お前達が新しい子たちだね?」


柔和な表情に皺が寄る。


「優しそうなお婆さんだね。」


思わず隣りにいる冬獅郎にこそっと囁いた。まだお互い挨拶もしていないのに突然話しかけたからか冬獅郎はちょっと驚いた顔をしたけれど、桃の言ったことに同意らしく僅かに頭を上下させた。


「女の方が雛森桃、男が日番谷冬獅郎というらしい。こっちはそこそこの霊圧だけどそっちはけっこう強いから気をつけな。婆さんの手に負えなくなったら言ってくれ。じゃあ、後は頼んだぜ。」
「はいはい。」


桃達を連れてきた男は手短に老婆に告げるとサッサと元来た道を帰って行った。


「さぁお入り。今日からこのうちがお前達の暮らす家だよ。」


柔らかな物言いで老婆は桃達の背を押した。玄関というには粗末な土間。更に一歩入れば釜戸に炊事場が並ぶ。反対側を見れば板の間に囲炉裏、火の消えた炉に土色の鉄瓶が据えられたままになっていた。


「遠慮はいらないよ、二人ともおあがり。」


老婆は草履を脱ぎ、自分が先に上がってみせて桃達に手招きをした。横の冬獅郎とどちらともなく目をあわせ、頷くと人馴れしていない猫のように草履を脱いだ。



長い長い、きっと気が遠くなるほど長くなるであろう流魂街生活の始まりだった。






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