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□390000h感謝小話「一番近くの狼」
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助け合わなければ生きていけなかった。お互いがお互いの面倒をみて大きくなった。他人同士が集まってする家族の真似事は後々桃の心の支えとなったのだ。だから心配してくれて嬉しいと思う。でも、皆大人になれば他人のことにはあまり干渉しなくなるのに冬獅郎はいまだ事あるごとに桃の身を案じてくれる。ここまで親身になってくれる人がいる自分は幸せ者だ。そう思うけど…。



「ごめんなさい!遅くなっちゃった!」


怒鳴られるのを覚悟で冬獅郎の部屋の戸を開けたけれど中は真っ暗だった。主不在の部屋を見て桃は直ぐに、まさか、と足先を自分の部屋へ変えて走り出す。
そして再び、


「ごめんなさい!遅くなっちゃった!」
「てめぇ!何回俺が電話したか知ってんのか!」



八回です。そう答えたら確実に火に油なので桃はもう一度謝罪の言葉を叫んだ。兎に角謝り倒すしかない。


「明日も仕事なんだから早く帰ってこい!」
「はい、すみません!」
「いいかげん同じことを言わせるな!」
「はいすみません!」



針のような雨が降る。しかし反論せずひたすら謝るのが最も早く終わるのだ。だから桃はじっと堪えた。
昔から冬獅郎は桃や祖母を大事にしてくれる。出かける時や何かを始める時、必ず一言声をかけてくれていた。でもそれは気遣いを添える程度のものでこんな過干渉ではなかった。いったいいつからだろう。冬獅郎がこんなに桃に厳しくなったのは。


「抜けられない状況だったのか?」
「いえ、そんなことは。」
「今度から抜けやすいように俺が迎えに行ってやろうか?」
「いやいやそれはやめて。」
「なんでだよ。その方がお前も帰る切欠ができていいだろ?」
「帰りたいわけじゃないから。」
「帰れよ!女がいつまでも酒場をふらふらすんじゃねぇ!」
「はいすみません。」


でも皆いっしょだし、だって楽しいし、けどたまには飲みたいし。いくつもいくつも反論の言葉は浮かぶが桃は我慢して口を閉じた。あー早くお説教よ終わってください。ひたすらそれだけを祈って正座を堪える。
冬獅郎は昔から思いやりがあっていい子だからいまだに桃を家族と思って案じてくれるんだろう。いい子だ、いい子なのだ。殺伐とした流魂街で人を思いやれるような優しい子。それが何をどう転んだらこんなシビアな人間に?


「最近ちょっと弛んでないか?!」
「はい、すみません。」
「お前みたいな小さくて世間知らずな女を騙そうとするやつはこの世にごまんといるんだぞ!」
「はい…。」



でもお父さん、貴方の娘はもう大人でそこらへんの男が束になってかかっても返り討ちにできちゃうくらい強く育ったのです。もう少しガードを弛めてくれても大丈夫なのです。
頭の上からガミガミガミガミ降ってくる。そんな桃の心の中の反論を見透かしたように冬獅郎は。


「いくら副隊長だからってお前は女だ!酔った思考回路で襲われちゃひとたまりもねぇんだぞ!」
「はい…。」
「男達に取り囲まれちゃ逃げられねぇだろ!嫁入り前の身体をもっと大事にしろ!」
「はい…。」
「わかったならいい。」


怒鳴り疲れたのかやっと人心地ついた冬獅郎はふぅ、と息を吐いて肩をほぐした。案じてくれる人がいるのは嬉しいことだ。桃は言いたいことをぐっと我慢してお小言タイムが終わったことに安堵した。


「あーもうこんな時間だね。」
「ったく遅ぇよ。」


お説教が長いんですよ、とは言えず。桃が黙っていると冬獅郎はその場にどっかりと胡座をかいた。首をほぐしながら喉が渇いたと言いお茶をくれと言う。なんだか帰る様子はなさそうで。


「……………………………………………今夜泊まってく?」
「あぁ、泊まる。」
「…………。」


即答か。
断らないんだ、と桃は乾いた笑いを浮かべた。
勧めておいてなんだけど、あれだけ散々男には気をつけろと言っておきながら自分は乙女の部屋に泊まるって。嫁入り前の娘というなら、血の繋がりもないただの幼馴染みという自分の立場も自覚してほしい。世間はいつまでも桃と冬獅郎を姉弟とは見てくれない。桃に最も近い狼は自分なのだといつになったら気づくのやら。
明日の朝、桃の部屋からのそのそ出てきた冬獅郎を見て部下達はなんて思うだろう。ちゃんと家族だと思ってくれればいいけれど。


「寒いな。早く寝ようぜ。」
「はいはい。」


さてさてこの幼馴染み君をどう扱おう。桃は溜息つきながら布団を二組並べて敷いた。




*「家族」の思いこみが激しくて嫉妬独占支配比護欲等々を露わにするくせに恋愛の自覚はない日番谷君、と他人の自覚はあるものの仲良し幼馴染み以上の感情はない雛森さん
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