ss4

□390000h感謝小話「一番近くの狼」
1ページ/2ページ










流魂街は弱い者同士、助け合わねば生きていけない場所だ。
桃と冬獅郎がいた潤林安は比較的過ごしやすい地域だと言うが、それでも日々の生活は貧困に喘いでいたし略奪や暴行は珍しくなかった。腹を空かせた子供が店の商品を盗む、店の主人に捕まった子供が痛い目にあわされる。当たり前のようにある光景だった。
殺伐とした世界で祖母と桃と冬獅郎、老人と子供二人の細々とした暮らしでは支えあうことは生きていく上で必要なことだったのだ。別段恩を感じなくともよい。だって助けあうのは当然のことだったのだから。



































柱にかかった時計を見て乱菊が桃に言う。


「雛森ぃ、あんたはもう帰りなさい。隊長が心配するわ。」


よく通る声が居酒屋の店内に響く。酔客のざわめきに負けることなく同僚の声が耳に届き桃もキョロキョロと店の時計を捜した。その針が指す数字にあちゃー、と顔をしかめずにはいられない。幼馴染みという名の小姑が桃の脳内にポン、と浮かんだ。
桃の幼馴染みは度の過ぎた心配性だ。桃が仕事以外で夜に出歩くのを良しとしない。やってしまったと額を押さえたちょうどその時、袂に入れた伝令神機が唸った。パカ、と開ければその小姑、もとい、幼馴染みからのメールだった。「いつ帰るんだ」の短い文だが今送られてきたものよりもっと前からメールは来ていたらしい。似たような未読のメッセージが五つもある。桃の頭の中の小姑が鬼にしか思えない形相に変わった。







「あわわわわ、すみません!私お先に失礼します!」
「ああ、雛森さんはそうした方がいいわね。」


伊勢が困り顔で微笑んだ。



「すみません。じゃあ、また明日。皆さんお休みなさい。」




女性死神協会の面々にペコリと頭を下げて桃は席を離れた。さしずめ厳格な父親を持つ箱入り娘。桃の事情を皆理解していて誰も引き止めようとはしない。冬獅郎が純粋に桃の身を案じているのを皆知っているし桃も冬獅郎の気持ちを無視して居残れば、その怒りの矛先が乱菊達に向くのを知っている。同じ女で同じ役職なのに乱菊達はまだまだ宵の口とばかりに追加注文を入れ賑やかにやっているのにこの違いはなんなんだ。仕事から解放され羽を伸ばして楽しむ同僚達を見ると何故自分だけ、と憤りを感じずにはいられないがここは素直に帰宅をし、怒れる小姑に平身低頭謝るのが一番穏やかな解決法なのだ。ガラガラピシャン、と店の戸を閉め、桃は酔いも覚める勢いで冬獅郎の部屋を目指した。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ