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□320000h感謝小話「後悔と、諦めと、達観と、」
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*原作 乱菊語り






雛森は隊長といると辛いという。


その気持ちが解るような、解らないような。
はっきりと形を成しているものをわざと朧気に見るのは疲れるもんだ。











最近どうも隊長と雛森の様子がおかしくて、あたしは片方を飲みに誘った。部屋で話してもいいんだけれど、いつ誰が乱入してくるとも限らないしヘンに深刻になるのも避けたかった。外で話す方が落ち着く場合もあるのだ。
店に来て一時間。初めは口の固かった雛森だが、お銚子三本空ける頃にはかなり瞼がとろんとして眠そう。閉ざした貝の口が開くのも近い。


「日番谷君はぁ、心配し過ぎるんですよぉ。」
「そんなの今に始まったことじゃないでしょ?」
「そうですけどぉ、もうあたしも子供じゃないんですし昔よりかはしっかりしたと思うんですよねぇ。」


語尾の怪しい雛森はいじけたようにいうと御猪口に少し口をつけた。チビチビと舐めるように呑む雛森の顔はどこか幼い。

隊長が雛森を構うのなんて昔からのこと。今更彼が何か突飛なことをしても原因が雛森なら皆納得するほどまでに浸透している。何せ彼は過去の大戦において隊長職を捨ててでも雛森の仇となる者を討つと叫んだ人。死神であることも戦うことも隊長にとっては雛森を近くで護る為に必要な手段にすぎない。もし雛森が死神を辞めてひっそりと暮らすと言えば彼も同じ道を選ぶのだろう。潔く、迷い無く。


「聞いてます?」
「聞いてる聞いてる。それで?」
「……はぁ………。」


雛森は黒い鉛玉のような息を吐いて俯いた。
隊長の想いはそりゃあ重いでしょうよ。
一方的に人生を捧げられれば受け取る方も大変だ。よく解る、よく解るわよ雛森。
半ば絡み酒の様相を醸し出していた雛森は、あたしが大きく頷くと掌の中の御猪口を見つめて一人言のように続ける。


「……この前、日番谷君の汗を拭いてあげたんです。背中は届かないからって…そしたら傷だらけで…酷くて……前より増えてて……。」


雛森の声が濡れていく。


「日番谷君が頑張っているのは知っていたんです……無茶してないといいなって…でも、あたし何も言わなかった……やめてほしいのに言わなかったんです。」



そこは「言えなかった」の間違いだろう。
彼の生き方は雛森が何よりも大事だと公言しているようなもの。そこを否定するのは死ねと言っているも同じだ。
隊長は卍解を完成させて尚、より一層高めるための修行をしている。平素の身体は未だ幼いまま、その負担は想像もつかない。雛森はそれを憂いているのだ。
彼が自らを追いこむのは雛森のため。
危険に飛びこむのも雛森のため。
誇張なく、彼は雛森のために生きているのだ。雛森も解っているから悩んでいる。



「あたしはどうすればいいんでしょうか…。いっそ死神を辞めて瀞霊廷を出て……。」
「…いっしょだと思うわよ?」


手元にあるおしぼりを雛森が目にあてる。あてたまま中々離さないのはもう止まらなくなったからか。

緩やかな成長と共に二人の間に新たな感情が芽生えたから余計に厄介なのかもしれない。誰だって愛する人には元気でいてほしい。
あたしには贅沢な悩みでしかない雛森の悩み。もしあいつが生きてたら、あたしも同様に悩んでいたかもしれない。やめてと言ってもやめないだろうし一緒に戦うのも許してくれない。泣いても喚いてもそこは引いてくれないのだ。そんな相手にあたしは手をこまねいて、時間だけが無駄に過ぎて。


ごめんね、雛森。あたしあんたに有効な助言、してあげられそうにない。
もっと言葉を交わせば良かった。避けられても追いかけて捩じ伏せて、無理矢理にでも様々な思いを聞きだせば良かった。後悔は尽きないけれど、不思議と思い出の中のギンはいつも笑っている。



「…雛森、隊長のこと好き?」
「……は、はい……………?」
「じゃああんたは一生隊長におんぶしてもらって、背中で笑ってりゃいいのよ。」
「???」





どうせ何を言ったってききゃしないんだから諦めなさい。
好きな女を護って死ねりゃ、きっと幸せな人生なんでしょうよ。
 

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