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□雛森祭り
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きっと世界はこんなにも楽しいものなのかと思えるはずだ







*乱シロ親子パロ





雛森が…と最近うちの息子が言う。
















見た目が周りと違うため冬獅郎は小さい頃から少し人と距離を置く子供だった。


少し違うか。
人が冬獅郎に近づかないから次第に自ら距離をとるようになった、が正解だ。傷つけられるくらいなら近寄らない。子供ながらにそんな自衛手段を身につけた息子があたしは可哀想でならなかった。できるなら息子の手を引いて子供達の輪に入ってやりたかったけれど、それができるのはせいぜい低学年まで。息子は成長とともに自分なりの対人スキルを身につけなければならない。けれど元々の人見知りもあって冬獅郎の友達づくりはあまりうまくいかなかった。

そうやって迎えた四年生の春。毎年恒例のクラス替え。その都度あたしは淡い期待をせずにいられない。
新しいクラスで息子に大親友ができればいい。そう思うけれど今までのつきあいからそんなもの望めないのは知っている。せめてクラスに乱暴者がいないのを祈るばかりだが、それでも期待してしまうのだ。息子が心許せる友達に出会えることを。きっと世界はこんなにも楽しいものなのかと思えるはずだ。




でも、母の願いは始業式から二日目で消えた。



「どうしたの?その傷?」
「クラスのやつと喧嘩した」
「ええ!?」


冬獅郎のほっぺたにぺたんと貼られた絆創膏。これまでから服を汚したり本を破いたりはあったけど身体に傷を作ったのは初めてだ。これにはあたしもブチ切れた。


「相手は誰?先生に電話するわ。」
「いい。後で先生が電話しますって。それにそいつとはもう仲直りしたから大丈夫だよ。」
「…………………ほんと?」
「うん。」
「…………。」



冬獅郎の顔を見つめてみる。この子が言ってることが事実なのかどうか。
じっと探るように見たけれど冬獅郎は母の想いなど意に介さぬようで、くるりと身体の向きを変えると冷蔵庫を開けて中を物色し始めた。


「ねぇ、ジュース飲んでいい?」
「………………どうぞ。」


ほんと親の心子知らずなんだから。ギンが帰ってきたら夫婦会議だわ。
その後すぐ担任から電話があり喧嘩の発端は些細な意見の食い違いだと説明された。相手も同等の傷を負ったから喧嘩両成敗ということで納得してほしいとのこと。更にこれまでにあったイジメ紛いのものではないから安心してくださいと言われた。
安心と言われて安心できるわけがない。
どうせまた相手のガキんちょが冬獅郎のことをからかったんじゃないの?つかみ合いの喧嘩っていったって相手には仲間がいたんじゃない?ほんとに相手のガキんちょも怪我したのかも怪しいもんだわ。
けろっとしてアニメを見ている冬獅郎と違ってあたしはもやもや。今夜は絶対ギンに報告して今後の手を打ってやる。これ以上息子を傷つけられてたまるもんですか。
まだまだ憤懣収まらないが、いつまでも怒っていられない。お腹を空かせた冬獅郎に晩ご飯のメニューを訊かれてあたしは足を踏み鳴らしながらキッチンへ向かった。
いっとくけどあたしもギン並みに執念深いからね。


















けれど、あたしの予想に反してその日から冬獅郎が変わった………気がする。
お腹がすくのか、よく食べるようになった。
夜更かしだったのに早寝早起き。
何より表情が変わった。よく笑う。
それと、



「今日雛森に50M走で勝った。」
「へぇ。」



雛森が雛森は雛森に、毎日その子の名前が食卓に上る。こんなにも冬獅郎が気にする子ってどんな子なんだろう?ううん、それよりも冬獅郎に友達と呼べそうな子ができたことがとても嬉しい。さりげなく訊きだせば始業式二日目の日、冬獅郎と取っ組み合いの喧嘩をした子らしい。どうやら仲直りしたというのはほんとみたい。まさかこんな形で友達ができるなんて思わなくて少し驚いている。ああ、でも、なんでもいいの。息子の学校生活が楽しくなるならなんでもいい。



「そんなに楽しい子ならうちに遊びに来てもらったら?」
「………うん。誘ってみるよ。」



やった!と内心ガッツポーズ。息子の初友達を拝めると、あたしは一人ほくそ笑んだ。
そして当日。僅かに頬を染めた息子の横にちょこんと並んだ可愛い子。






「…連れてきた。」
「こんにちは、雛森桃です。」




あらま、女の子だったのね。









 
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