ss3
□2017117day「放置厳禁」
2ページ/2ページ
あたしは今、正に突き立てんとする爪を引っ込めて引きつる顔で誤魔化しの笑顔を作った。
「僕達は顧問の松本先生に子供が産まれてね。その出産祝いを買いにきたんだ。後で朽木さんも来るよ。」
「あ、ああ、そっか、三人ともバスケ部だったもんね。」
「出産祝いなんて何を贈っていいか解んねーんだよな。」
「僕達、弟も妹もいないしね。子供服とかかな?」
「うーん、あたしの従姉妹は新米パパママに、ってワイン貰ってたよ。」
「未成年にワインは買えねぇよ。」
「阿散井君なら大丈夫だよ。老けてるもん。」
「お前ひどいな!」
「あははは、違わない。」
救われたと思った。
もやもやに押し潰されそうだったけど気の合うクラスメートと笑ったら暗い気分が少し軽くなった。持つべきものは友だと心底思う。
友は大事にしようと心に誓いを立てたいくらい救われた。
「雛森これから何か予定あるか?よかったら一緒に選んでくれよ。」
「え?あー、」
「そうだね。雛森君センスあるし。僕達だけで選ぶよりいいかもしれないね。」
「いやあたし実は今、」
実はこんな所にぼっちでいますがデート中なんです。モテモテ彼氏は学校の女子に囲まれてにやけ中なんです。
正直に言えばこんな状態なあたし。でもこんなデート今すぐ帰りたい。
二人に断ろうとして現実に戻された。浮上しかけてた気分が再び沈み、あたしは曖昧に笑うと俯いてしまった。再び笑う元気もでないや。
「ど、どうしたの?気分でも悪いのかい?」
吉良君の手が肩に置かれる。でもその重みはほんの一瞬だった。
「悪いけど今デート中だから。」
「は?」
頭の上で聞こえた声。顔を上げれば決闘でも申し込むのかってくらい人相の悪い彼氏がいた。肩に置かれた手はシロちゃんのにすり替わり、重く乗っかる。え、なんか力入ってませんか?重い。
知らぬ間に瞬間移動したシロちゃんは心なしか顎を上げて威嚇の様相。あたしの友達にもさっきの愛想をふりまいてほしい。まぁこれが普段の彼っちゃあ普段の彼だけど。
「なんだ雛森、それならそうと早くいえよ。」
人相の悪いシロちゃんを気にすることなく阿散井君。大人だ。
「あ…ごめん…。」
「気にしないで。邪魔して悪かったね。」
手を振ってくれる二人にあたしも手を振って。
肩に置かれた手が心なしか重くなる。
「じゃあ明日、学校でな。」
「うん、二人共気をつけて行ってらっしゃい」
阿散井君と吉良君は愛想の悪い彼を気にすることなく手を振って行ってしまった。あたしは怖い顔の彼氏を見て周りを見て。
「あれ?クラスの子達は?」
「…知らねーよ。」
いったいどこに消えたんだろう?さっきまであんなにかしましかったのに。
あたしがキョロキョロしてると肩にかかるGは更に増して、あたしは肩を掴まれたまま回れ右をさせられた。
「ちょっと、どこ行くの!?」
「映画館。この近くにあるらしい。」
「あ、そうなんだ…?」
そういえばそんな会話をしてたような?
人相の悪い彼氏は機嫌悪そうにあたしの肩から手を離した。代わりに右手が取られ指が絡む。
「っとに……ちょっとの間も調子に乗らせてくれねぇんだな。」
「…いつ調子に乗ったの?」
「解らなくていい。俺が馬鹿だった。」
むっつりシロちゃんは残念そうに溜め息ついて、あたしをグイッと引っ張った。
*やきもち焼かせたかった彼氏