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□2017117day「放置厳禁」
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髪は重そうなストレート。
眉毛は下がり気味で太くて立派。
細いだけの身体に至っては凹凸絶無。
性格が仏様っていうんならまだしもあたしの中には悪い雛森桃だっている。頭の出来も小学校の頃から中の下を快走中。



駅ビルの硝子に映る自分の姿にあたしは現実逃避したくなった。はぁ〜とついた溜め息で硝子が曇る。





「日番谷君とこんな所で会うなんてすっごい偶然ね。」


「いつもこの辺で遊んでるの?」



硝子に映る自分から目をスライドさせればクラスの女子達に囲まれている恋人が映っている。
おいおいおいおいシロさんよぉ、何だか鼻の下が伸びてないですか?彼女が寂しく硝子に貼りついているのが見えませんか?恋人といるより楽しそうなんですがこんにゃろうめ。一応、今日はデートでしたよね?
硝子越しに睨んでも御機嫌な彼には届かない。てやんでぃ、こんにゃろうめ!!!



一つ下のシロちゃんとあたしは実は付き合ってたりする。これでも交際一年だったりする。御近所さんのシロちゃんが同じ高校に入学してきたのを切欠にあたし達は小さい頃のように再び仲良く話すようになった。暫くして彼から告白され、ゆるゆるとあたし達は交際を始めたわけだけど正直シロちゃんがこんなにモテるなんて知らなかった。


「あたし達よく来るんだよ?」


「へぇ、そうなんだ。」


「映画館も近いしけっこう遊べるし。」


「ふぅん。それはいいな。」


「でしょ?もう少し行った先にはね……。」







女の子達の目がキラッキラしてるじゃないですか。それあなたのせいですよね?いつになく笑顔なんか溢しちゃってどうしたのよ?標準装備の眉間に皺を忘れてやしませんか?


自分の彼氏が他の女の子に愛想いいのがこんなに心臓に悪いもんだとは思わなかった。あたしはいまだショーウィンドゥの硝子に向かって深呼吸を何回か。
ふーん。まぁ、かっこいいよね。うん、客観的に見てかっこいい。あたしはどうしても幼なじみフィルターで見てしまうからかっこいいよりも可愛いが勝っちゃうけど他の人が見れば文句無しにかっこいいんだろうね。


「私服の日番谷君ていつもこんな感じなんだ?」


「センスいいね」


けっ!センスいいのは彼のお母さんです。シロちゃんは放っておけば一日中ジャージで過ごしちゃうくらいファッションには疎いんだから。


硝子に向かって膨れてみせても肝心のシロちゃんには届かない。クラスメートらしき女の子達に鼻の下は伸びるわ目尻は垂れ下がるわ、へっ、イケメンが笑っちゃうぜ。ただのスケベでしょ女ったらしでしょ。彼女がここにいるんだからクラスの子に紹介してくれても良さげなもんなのに放置って…放置ってぇ!



悲しくて悲しくてじわりと目の奥が熱くなった。予期せずに硝子を通して女の子に囲まれるシロちゃんと目が合うと彼はニヤリと訳の解らない笑み。


はぁあ?こっちは何も面白くないんですけど?何が可笑しい?彼氏がモテてる状況にあたしは笑えないんですけど?



「うー…!」



もう硝子を爪でギリギリしちゃう。ギリギリして通行人の皆様に嫌な音を撒き散らかしちゃうんだ。騒音公害で訴えられちゃう彼女になってやる。


「うー!」


「あれ?雛森じゃね?」


「雛森君!?」


「う?あ!阿散井君!?吉良君も!どうしてここに!?」


ビルの硝子に向かって思いっきりいじけている姿をクラスメートに見られてしまった。








 
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