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□彼女は努力家
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もうそんなに頑張らなくても可愛いんだからやめてほしい。どんどん魅力的になられちゃ冬獅郎の手の届く範疇を超えてしまうじゃないか。










「やったー!今年の夏は海だー!」
「こうなったらこの服買うしかないよ桃。海にぴったり。」
「ダメダメ、似合わないもん。」
「そんなことないって、ねぇ吉良君?これ桃に似合うと思うよね?」
「ん……?ああ!似合うよ雛森君!絶対に似合う!」
「ほらね?」
「吉良君いい人だから…。」
「本当だって!雛森君は可愛いんだから!この服着たらもっと可愛くなるよ!」
「あ、ありがとう。」



吉良ああああ!
熱弁する吉良に桃が照れたように頭をかいた。少し小首を傾げたそんな仕草も可愛くて、吉良が夢見てるように赤くなる。きっと今、桃の中で吉良の評価は鰻登りだろう。


「素直に言ったもん勝ちだな。」
「黙れ。」


もう一編落としてやる。
痛いことばかりを言う悪友にもう一度絞め技をくらわせながら心の中で号泣した。


本当に素直にならないとこのままじゃ桃に見向きもしてもらえない。既にあまり目も合わせてもらえなくなってるし。もしかしたら桃の中の冬獅郎は煙たい存在なんだろうか。重箱の隅をつつくように桃の欠点をあげ連ねていれば確かに煙たがられると思う。冬獅郎は桃の恋人よりも姑としての才能があるのかもしれない。



冗談じゃねえ!


冬獅郎が罵る度に桃は貶されないよう自分磨きに精をだす。意地悪な姑と落ち度がないよう気を配る嫁の図そのものじゃないか?やがて可愛く磨かれた嫁桃はますます男達から注目され、姑冬獅郎の存在は邪魔なばかり。
この悪循環を断ち切らねば!



「おい雛森!」
「え?あ、日番谷君…。」


冬獅郎が声を張って名前を呼べば桃は僅かに身体を縮こまらせた。これは確実に煙たがられている。でもここから逆転しなければ。
とりあえず吉良を追い返して、遅ればせながら今日の髪どめが似合ってることを伝えよう。出来ればこの夏映画でも…。


つかつかと近寄った桃達の机には今見ていた雑誌がどん!と置いてあった。意図せずとも冬獅郎の目にそれが映る。
夏のビーチでモデルが白いレースのスカートを履き冬獅郎に微笑みかける。一瞬にして冬獅郎の目にはそれが桃にすり替わり…。
む、ムチャクチャにしてえ!


「あの…どうかした?」
「えっ!?ああ、いや…えーっと……。」



不思議顔の桃のみならず吉良や女友達の視線までもが冬獅郎に向いた。



「なによ日番谷?」
「桃に何の用?」
「また嫌み言ったら承知しないわよ?」



お前らには言ってねぇ!

すかさず入ってきた桃の友達が優秀なボディーガードのようだ。威嚇に近いその態度にかちんときた冬獅郎だが今は喧嘩をしに来たわけじゃない。唐突だろうがなんだろうが今日という今日は桃を素直に褒めるのだ。そして夏休みの約束を。


「日番谷君?あ、もし良かったら日番谷君達もいっしょに海にいかない?今吉良君に誘われたの。」


殺人的な天使の微笑み。背中に羽が見えたような?
冬獅郎の天使が柔らかく誘ってくれるが「ね?」と吉良と交わされた目配せがもう面白くない。

行きてぇ!でも吉良といっしょはお断りだ!
男なら嬉しいはずの桃からのお誘いもライバルがいっしょならごめんだ。でもかといって放っておけば桃は誰かのものになる。
言い表しようのないムカムカが冬獅郎の胸に膨らんでいく。吉良と笑いあってるからますますイラつく。ムカムカもやもやイライラ。



「行かねーよ。」
「そう…。」


残念そうに桃が雑誌に目を落とす。それを冬獅郎も追って。



「ふん、そんな服着ても中身が猿じゃあな。」
「む!悪かったわね!どうせ猿ですよ!」
「怒ると余計に猿だな。」
「日番谷君!」



ああ!口が勝手に!俺の馬鹿!


心で泣きながら桃達から離れた。
髪どめが似合うと言って、雑誌の服も桃のイメージによく合うと伝えて、そして時間があればどこか2人で…。そう会話を展開したかった。でも長年染み付いた天の邪鬼はそう簡単に冬獅郎の中から出ていかなさそうだ。悪態しか思いつかない。後ろから聞こえる女達の「あいつ何しに来たのよ」の言葉に返す元気もない。その通りです。何のために声をかけたんだろう。







「お疲れ。お前馬鹿だろ。」
「言うな。」





それは自分でもわかっている。






 
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