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□彼女は努力家
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彼女は努力家



*日雛パロ









冬獅郎は激しく後悔している。長年に渡って彼女にぶつけてきた言葉がまさかこんな悲劇になるなんて思ってもみなかった。ただの照れ隠しだったとはいえこうなったのは冬獅郎の責任だ。最早非常事態。

















「不細工なやつは何をしたって不細工なんだよ」




10年以上も前の話だ。幼気な子供時代の話。毎日いっしょに遊んでいた桃に冷たい言葉を投げつけた。今思えば仲の良さに甘えていたのだ。桃になら何を言っても許されるとどこかで思っていたんだろう。髪に花を飾る行為は女の子なら誰だって一度はするもの。それを冬獅郎はたった一言でもぎ取った。


冬獅郎が貶した時の彼女はいつもと同じ反応だった。頬を膨らませて冬獅郎を睨む、とても見慣れた表情だった。桃は怒るといつも膨れるのだ。その勝ち気さに冬獅郎は鼻を鳴らして立ち去ったけれど、他の遊びに走り回っている時にふと見てしまった。彼女は誰にも見られない場所でそっと髪に付けた花を取っていた。


悲しげな桃の横顔は今も冬獅郎の脳裏に焼き付いている。10年経っても頭から離れない。白い大きな夏の花は元気で明るい彼女にとてもよく似合っていたのに。なぜ素直に似合ってると言えなかったんだろう。そうすれば桃は白い花よりも綺麗に冬獅郎へ笑ってくれただろうに。
幼かったの一言では到底済ませられない。冬獅郎の罪はそれだけではないのだ。
なぜなら冬獅郎はそれからもことあるごとに桃を不細工呼ばわりしたのだから。
























「これ、この服きっと桃に似合うよ。」
「えー、あたしには可愛い過ぎるなぁ。」


教室の片隅から賑やかな会話が聞こえる。数人の女子がファッション雑誌を囲んで笑っているのだ。
仲のいい友達に勧められて桃は眉を下げて首を横に振った。
さらさらの黒髪がふわりと揺れて日差しに光る。自信なさげな表情だけど似合うと言われて嬉しいのか頬が少しだけ色づいた。その光景に見とれてしまう。





「おい、冬獅郎、聞いてんのか?」
「………………聞いてる。」
「聞いてなかったな…。ったく雛森ばっか見てんなよ。」
「み…、誰が見るか、あんなブス。」
「雛森をブス呼ばわりしてんのお前だけだし。素直にならねーと誰かに先を越されるぞ?」
「お、俺には関係ねぇ…。」
「あ、ほら吉良のやつが早速行ったぞ。」
「え!?」
「うそ。」
「…絞めてやろうか?」
「わー!あ、ほら本当に…。」



冬獅郎に襟を締め上げられた友人が苦しみながら指した先にはライバルの一人が桃達に話しかけているところだった。思わず締め上げる手に力がはいる。


「吉良じゃん。なんか用?」
「雛森君達、夏休みは何か予定ある?」
「え?うーん、たぶんずっと部活だよ。どうして?」
「みんなで海に行かないかい?阿散井君の親戚が民宿やっててただで泊まらせてもらえるんだ。」
「わあ!行きたい!」
「それ、檜佐木先輩も来る!?」



吉良の提案に女子達が一斉に歓声をあげた。勿論桃も瞳を輝かせて喜んでいる。
何故こうもやつは素早いんだろう。冬獅郎が足踏みしてる間に吉良はいつもスルリと先を越していく。



「今、阿散井君が声をかけてるよ。」
「あたし檜佐木先輩が来るなら行く!」
「ありがとう吉良君、予定空けとくね。」
「いやぁ、ははは、僕らも女の子がいたほうが楽しいしね。」


桃に笑顔を向けられて吉良の顔がだらしなく弛む。


上手いことやりやがって…。


「と、冬獅郎、苦しい…」


本当は冬獅郎も夏休みの楽しい思い出作りを桃としたい。なのに桃を前にすると口から出るのは悪口ばかり。昔からそう、身長も中身も冬獅郎は成長していない。本当は桃のこと誰よりも可愛いと思ってるのに一度でも口にすれば気持ちがバレてしまいそうでつい罵ってしまう。長年に渡って冬獅郎に罵倒されてきた桃はおかげで自分の容姿に自信が持てない女の子になってしまったようだ。少しでも見た目を良くしようと努力しているらしく元々の可愛さに拍車がかかる。これ以上可愛くならなくていいのに。無駄にライバルが増えて頭が痛い。
冬獅郎が桃を貶せば貶すほど彼女は可愛くなっていくようだ。



 
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