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□ピタッとね
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本当は少し気後れしていたんだ。心の隅っこで怯えてた。
こんなガキみたいな俺が恋人だなんてみっともないんじゃないかって。おままごとのように軽い気持ちだと思われないかって。


「寒いねー。映画館入ろうか?」
「桃……良かったのか?」
「なにが?」
「その…俺を紹介して…。中学生と付き合ってるって知られたら…」



声に力が入らないのが情けない。いつも胸に渦巻く不安はこんな時、気紛れのように顔を出して虚勢の風船に針を刺す。


ずっと前から好きだった。嘘じゃない。
焦がれる気持ちは静まるどころが年を負うごとに膨らんで。どうしたって俺より早く大人になる桃を誰にも取られたくなかったんだ。じれったいほど遅い成長速度。待てなくて待てなくて、急く気持ちに押されて俺は桃に告白した。彼女が頷いてくれたのはもはや奇跡に近い。けれど、有頂天になるには現実は厳しくて。俺はいまだに彼女の背を追い越せない。つまらない見栄を張りたくて彼女を困らせたりもする。自信が無いから嫉妬も多い。

こんな俺、桃はどこがいいんだろう?



自己嫌悪の坩堝に嵌っていたら、桃が溜め息をついた。


「そうだねー、可愛い中学生の男の子にお姉さんが手ぇ出したことになるんだもんねー」
「ちが、そうじゃなくて……俺はこんなガキだし…」
「2個しか変わんないよ?シロちゃんが20になればあたしが22、うん全然気にならないなぁ」
「チビだし…」
「今年中には追い越されそうですが?」
「直ぐヤキモチやくし……」
「それ、スッゴく嬉しい!」
「せっかちだぞ?」
「いつもノロマなあたしのフォロー、ありがとうございます」



追いかけっこのようにポンポン言葉が返ってくる。冷たい風が俺達の間をすり抜けて、でも繋いだ手だけは温かい。


「あのね、日番谷君は誰よりも一番あたしを好きでいてくれてるでしょ?だから好きなの」
「…自惚れかよ」


言うと桃は茶目っ気たっぷりに「えへへ」と笑った。


「あと、いつもあたしの心配してくれてるでしょ?」
「…お前危なっかしいからな」
「あたしを一人で泣かせてくれないよね?」
「……一人で泣かれちゃ俺が嫌なんだよ」
「それに日番谷君といると楽しいし」
「つまんねー男だと思うけど…」
「あたしが楽しいからいいの」
「自己中かよ」
「ふふふ、あのね………あのね…ありがとうって、いつも言いたいの」
「は?」



ひとしきりの掛け合いの最後、桃は俺に横顔を見せた。この寒さに彼女の鼻が赤くなっている。それを隠すように桃はマフラーを引き上げた。俺は彼女の言う意味が解らない。

「世話焼きな弟みたいだって言うんだろ?」


我ながら自虐的なことを言ったと思う。自分で言ったくせに胸が痛む。でも桃はそんな俺の言葉を笑い飛ばした。


「あはは、確かに御世話されてるかも。あたし日番谷君にはすごく支えてもらってるもん。他の誰も日番谷君に敵う人はいないくらいだよ」
「俺はそこまでしてねぇよ」

「もしかして自覚なし?そこんところに気づいちゃったらね、すごく嬉しくなって、あたしも日番谷君のこと大切にしたいなぁって思ったの」


桃がまたマフラーを引き上げた。もう顔半分が完全に隠れてる。


「あたしが日番谷君を幸せにしてあげたいの。だから些細な差なんて気にしないで。そんなのあたし達に関係ないよ」
「桃…」


桃がまたマフラーを引き上げた。おい、顔全体が隠れてるぞ。照れ隠しは解るけど、ちゃんと前を見て歩け。まるで不審者じゃないか。



でも、そんな風に言ってくれてありがとう。


照れた桃は俺の手を引っ張ってずんずん歩く。前が見えてないのによく歩けるなお前。ヘンな女。けど大好きな女。
僻みっぽい俺はたぶんこれからも拗ねたりいじけたりするんだろう。けれど、今の言葉を思い出せば乗り越えられそうな気がしてきた。


また冷たい風が俺達の間を吹き抜ける。俺は後ろから桃を呼ぶ。



「おい、寒いから隣りを歩け」



せっかく手を繋いでいるんだ、もっと隣りへ来いよ。



肩がつくくらい近づいて。


隙間なんか埋めてしまって。







 
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