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□20151217day「12月17日ー1月17日のhoneymoon」
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「もう…日番谷君…あたしを困らせないでよぅ。」
「困らせるつもりはないさ。俺はただ今までみたいに仕事の帰りにお前んちに寄るって言っているだけだ。」
「それはそうなんだけどぉ…。」


仮にも一度襲われた相手を部屋に上げるのってどうなんだろう?ていうかすんなり上げてもらえると真面目に思っているんだろうか?ダメ元で言ってる?でも、こう正面きってあっけらかんと言われると調子が狂う。いつもの他愛ない喧嘩をした後みたいだ。


口元に笑みを湛える日番谷を見てまたもやダメダメ、と頭を振った。
雛森だってそれなりに学習能力はあるわけで、一度目はキスで済んだが二度目は…。押さえつけられた力強さを思い出して雛森は頭を抱えた。怖がりはしない。ただ猛烈に困っている。う〜う〜唸る、その様子を見て日番谷はほくそ笑んだ。それがまた憎らしい。


いくら幼なじみで親しいからっていきなりキスされたら怒るだろう。もしくは男の力に任せた行動に恐怖を感じるか。
でも雛森はさほど怒らなかった。日番谷を警戒するが怯えない。弟みたいだった男から告白を受けて戸惑いはあるが拒絶はしない。日番谷の行動に敏感になったのは意識している証拠なのに雛森は気づいていない。日番谷はちゃんと気づいているのに本人に自覚はない。


あんなことをした男、いくら好意からの行動でも絶交したっていい。なのに雛森は怒るには怒ったが、日番谷が反省の色を見せたらあっさりと許していた。「もうしないでね」と言ったら「わからない」と答えられ、真っ赤になって取り乱した。今では日番谷からの好意にどう対応するべきかうんうん悩む毎日だ。





赤い顔で困り果てる雛森に、日番谷は「ぷっ」と笑いを漏らすとそっと手に触れてきた。重なった手に、つい肩を揺らした雛森だが柔らかく包むように握られて何も言えなくなった。


「ずっと待ってたんだ…だからこれからも待つよ。」
「……ダメだよ…あたし日番谷君の気持ちに応えられるか…。」
「いいんだ、それでも。俺がそうしたいんだからお前が気にすることはない。」



無理なことを言う。
弱々しく首を振った雛森に日番谷はただ静かに微笑んだ。優しい翡翠が雛森の鼓動を早くする。呼吸が苦しい気がして死覇装の胸元を掴んだ。



日番谷は弟、ずっと弟。恋愛対象になど見たことなかった。こんな笑い方、いつからしていたんだろう?
口は悪く、雛森が傷つくこともズバズバ言う。年下なのに雛森よりもずっと偉そうで生意気だ。でも雛森が本当に苦しい時、彼がそばにいてくれたらとても心強かった。昔から日番谷の傍は雛森の安らげる場所だった。
まさかこんな急に雛森の恋愛枠に飛び込んできて、振り回されるとは。でも、困るけど悩むけど会いたくないとは思わない。嫌うなんてとんでもない。


「だから今夜、行ってもいいか?」
「……ぷっ、」



よくもまぁぬけぬけと。
控えめかと思えばやっぱりそう来るか。
一瞬、きょとんとした雛森だが悪戯な翡翠と目があって、二人いっしょに吹き出した。本気混じりの冗談なことは知っている。雛森が「いいよ」と言えばたぶん本当にやってくる。そうなれば自分はいったいどうするだろう?
わからない。少なくとも最初のようなマヌケな返事はもうしない。





突然押しつけられた恋心に免疫がつくまであと少し。


新しい局面が現れるのは、その向こう。


 
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