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□2015117day「素敵予想外」
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これって運命なのかな?


仄暗い灯りの中、桃が柔らかく微笑んだ。布団に顔を埋もれさせ、あんまり幸せそうに笑うからどうにかしちまいそうになる。さんざんどうにかした後だけれどもっと愛でたくなるじゃないか。
そんな衝動はぐっと内頬を噛んでやり過ごし、俺は桃の鼻先に掠めるようなキスをした。











色んな事があった俺達は、色んな事を乗り込えて遂に一つになれた。平子という新隊長を迎えた桃は心機一転、以前よりも明るくなり、手痛い仕打ちを受けた経験からか落ち着きが加わった。それを周りは人間の幅が広くなったとか大人になっただとか評したけれど本当は胸の奥でずっと藍染を引きずっていたんだ。無理をして己を鼓舞していたにすぎない。
考えみりゃ当たり前だ。何年も何十年もあの男の背中だけを追いかけて走っていたんだ。狂いそうなくらいの想いをそう簡単
に忘れたりはできないさ。俺も同じだからよく解る。
だから俺は待っていた。桃があいつを忘れるのを。何年かかろうがずっと傍にいるつもりだった。桃が藍染に心酔していたように俺もまた桃以外の人間など考えられなかったから。別に振り向いてくれることを望んじゃいない。ただ近くで護れたらよかったんだ。そう思っていた。

思いたかった。











なぁ桃、俺達って可笑しな所で似てるのな。頑固で融通が利かない自分は扱いづらいぜ、そうだろう?もっと柔軟に生きてりゃそれなりに幸せを掴めたと思うのに、本心がそれじゃあ嫌だと駄々をこねる。それなりの幸せよりも苦労してでも欲しいものがあるんだ。誰よりも見ていたい人がいるのに「それなり」で我
慢できるわけがない。



物心ついてからずっと目まぐるしい中で生きてきた。汚れた濁流の中を歩いているような毎日の中、桃と婆ちゃんだけが俺の手を引いてくれた。おかげで俺は激しい波に浚われずにすんだんだ。
二人には感謝している。いつかきっと恩返しをと思っていた。お前と婆ちゃんのためなら何だってしようと幼いながらに誓ったのに、いつの間にか欲が出た。



桃がほしい。
桃を護るための権利を得たい。




生まれた気持ちを認めるにはかなりの時間がかかったよ。周囲の人間から疎まれていた過去は何年経っても俺の心に醜い傷痕として残っている。嫌われ者だった俺が桃を好きだなんて言えるわけがない。加えて彼女には見つめている男がいた。報われなくとも最初の信念を貫き通すのが俺らしいと思っていたのに歯車は思いもよらぬ狂い方をした。


ああ、そうだな。こういうのを運命というのかもしれないな。


あの男が反乱をおこすなんて誰が予想しただろう。
俺達がかつてないほどの大戦に遭遇したなんて信じられるか?
お前が俺に気づいてくれる日がくるなんて…。

どれもこれも予想外のことばかり。
確かに運命って言葉を使いたくなる。



微睡みの境目で桃がくすくす笑う。特に面白いことがあるわけでもないのに半分夢の世界に落ちながら笑顔を向ける。


「すごいね、あたし達。」
「なにがだ?」
「この広い尸魂界でよく出会えたね。」
「………。」
「これって運命だよね?」
「………。」


呂律も怪しい桃は言うだけ言ってそれきり目を閉じた。深い寝息とともに落ちていく。俺は彼女が零した言葉を深呼吸で吸いこんで胸の一番奥にしまいこむ。


このバカ桃が。
あんまりしみじみ言うから茶化せなかったじゃないか。大袈裟な、と呆れてやろうとしたのにお前が幸せそうに話すから喉の奥が痛くなっちまった。


優しい爆弾を投げつけて、サッサと眠ってしまった桃に触れた。手に入れたくてたまらなかったものを壊さないように抱きしめる。
桃はいつもいつも予測不可能な言動で。
おれはその度追い詰められた気分になる。



くそ、泣いてたまるか。
きっとこれはまだ序盤だ。溢れんばかりの素敵な未来をくれるんだろう?



たとえば、明日の朝、目覚めたての君を俺に。




 
 

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