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□270000h感謝小話「音速の奇公子」
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夏休みも後半に入ると生徒会はもう二学期が始まったも同然だ。
9月に入っていきなりの定期テスト。それが終われば文化祭、そして体育祭の二大イベントが待っている。またそれが終われば定期テストを挟んで、今度は音楽祭と芸術祭。いったいこの学校はどんだけ祭り好きなんだろう。


二年の次期生徒会長、日番谷は暫しの息抜きにと生徒会室の窓枠に肘をついて風を浴びた。室内はとにかく暑い。
眼下を見ると体育館裏で日番谷のクラスの男女が数人、文化祭で決めた出し物、「ハ〇ルの動く城」の展示物を作っていた。その中でちょこちょこと動くおかっぱ頭の少女に自然に目がいってしまう。友達と何やら言葉を交わしてトンカチを握っているけど、おいおいお前はぶきっちょだろうが大丈夫かよ、と頬杖のまま勝手に心配したりして。案の定打ち損じて短い悲鳴。女子の友達に頭をよしよしと撫でてもらっている少女を見て、何歳だよお前は、と日番谷の口端が上がった。



「何見てんだ?」


「………何でもねぇ。」


「あぁ、お前のクラスの文化祭準備ね。こっちも暑いけどあっちも暑そうだな。」


「何でもねぇって言ったけど…。」



日番谷の背後から気安く先輩役員が声をかけてきた。思わず身を起こす。彼は日番谷の視線の先を簡単に掴んでたった今までの日番谷と同じように窓枠に頬杖ついて日番谷のクラスの連中を見る。展示物制作はまだまだ続くようで工具を使う音が辺りに響く。寄ってきた先輩はその中の数人いた女子に目を留めて日番谷へ面白そうに話し掛けた。



「日番谷の好みのタイプってあんな子だろ?」


「あ?」


「ほら、髪が長くてスタイルのいい巨乳のあの子。だろ?」


顎でくぃ、と指された先には確かにロングでナイスバディな少女がいたが日番谷が見てたのはその隣り。でも言わない。


「女に興味ないっスね。」


「またまたぁ、むっつりなクセに。俺のタイプはなぁ……、」


誰がむっつりだ。
一人で話を進める先輩にいちいち訂正するのも面倒くさい。 日番谷はさっさと作業に戻ろうと窓枠から手を離したその時、耳に飛び込んできた言葉は日番谷をフリーズさせるには十分で。


「俺はあの子、あの髪留めした黒髪の子が可愛い。なんか細くて抱きしめたくなる。」


はぁ!?


ニヤニヤしながら彼は頬杖から更にダラッと腕を崩し、
重ねた両手の上に顎を乗せて少女を見つめた。
その波打つようにヤらしい眼が少女に向けられているかと思うと日番谷はカッとなった。


「俺ああいうの好き。可愛くって清楚な感じのやつ。」


黙れ。喋んな。


「早く作業に戻りましょうよ先輩。」


「俺の担当は終わったもん。ほんと、ギュッてしたら折れそうだな、たまんねー。あ、でももう少し胸は欲しいかなー、Bも無さそう。」


「せ〜ん〜ぱ〜い〜。」


「え……なんか…顔が怖いんだけど……?」


顔中に闇を貼りつけて日番谷が迫る。
空いた片手が知らず知らず拳を作って振り下ろす先を欲しがっている。



胸なんか見てんじゃねぇ!

あいつは俺のご近所さんで
あいつは俺の幼なじみで
あいつは俺がずっとずっとずっと……


日番谷が長年もやもやと燻らせてきた思いや感想を何故にこんな下衆い先輩が簡単に口にするのかわけがわからない。いやそれは本人の自由だから先輩に罪は微塵も無いのですけれども。
つまりそれほど大切に温めてきた気持ちを横で、こんなこんなあっさりと言われてしまうと理不尽と解っていても腹が立つ。




日番谷の幼なじみの雛森は確かに年々可愛くなっている。
胸は生育不足だけど、その細さは男の庇護欲を刺激するには十分だ。滲み出るような愛らしさは誰にも見せたくないほどなのに、羽ばたく蝶を籠の中に入れておけないジレンマに日番谷は日々苛まれる。


もう見るな!


穢らわしい視線をシャットアウトするために日番谷はバシンと乱暴に窓を閉めた。


「おい!暑いだろ!」


コンマ1秒後に再び開けられる。


「団扇使え!」


「団扇なんかねぇよ!」


「ならプールにでも飛びこめ!」


「死んでも嫌だ!」


くだらない先輩後輩の声が下のクラスメイトにまで聞こえたのか言いあう二人の元に澄んだ声が投げられた。


「おーい、日番谷くーん。後でこっちも手伝ってねぇ。」


ひらひら手を振りながら、無邪気な笑顔。


一瞬ドキッとした日番谷だけど、目の前の野郎の顔も締まり無く緩んでいるのに気づいてバシン!と音速で窓を閉めた。


「俺、クラスの展示物、手伝ってきます!」


脱兎のごとくとはこのことか。
仲間の返事も彼の背中に追いつけなかった。


「あいつ………わかりやすいな。」





















雛森!今すぐ隠れろ!」
「?」

 
 

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