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□嘘つきはだぁれ?
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*日番谷




我が儘で甘えたで、とっても手のかかる女なんだ。誰もあんなやつの相手はしたくないだろう?だから俺が仕方なくもらってやるんだ。


赤ら顔で隣りに座る檜佐木さんに渋い顔をしてみせたら、後ろに座っていた桃から背中に肘鉄くらった。その途端、苦労して作った俺の渋面は霧散する。


もうだめだ、笑いたい。
俺達の話を後ろのテーブルで背中合わせに聞いていた桃がちらりと頬を膨らませて睨んでいる。悪かったって、嘘に決まっているだろう?お前を除いて、ここにいる殆どの連中が俺のなりふり構わぬ姿を知っているんだ、今更俺が何を言ったってただのネタにしか思われないさ。


















桃と再会したのは一年前の合コンだ。檜佐木さんに無理矢理連れてこられて嫌々ながらの参加だったがそこで俺は人生最大の幸運を掴んだ。

お相手の女達はいつも総じて姦しく、まぁお通夜みたいなのもなんなんだけど、その中で遅れてきた女が一人、俺の斜め前の席に座った。相手側の仕切り屋的な女に「雛森」と呼ばれてやってきた彼女を見て俺の時はゆっくりと回りだしたのだ。


雛森?


俺の記憶にその名前はしっかり刻まれていた。
忘れもしない。昔、俺の家の隣りに住んでいた少女。よくいっしょに遊んで喧嘩して、人とのつきあいが下手な俺はいつも彼女に救われていた。中学にあがるタイミングで彼女はどこかへ引っ越してしまったけれど、ずっとずっと俺の心の奥の大切な場所に彼女は住んでいたんだ。いつかどこかで出会えたら、そんなドラマみたいな淡い期待と共に。
まさか現実になるなんて思っても見なかった。

執念深く想ってると運をも引き寄せる、これを俺の座右の銘にした。






久しぶりに見た桃は全然変わっていなくて呆れちまった。多少大人びた感はあるが表情はそのまんま、笑った顔も困った顔も俺の中の桃と一致する。声は透き通ったソプラノで髪は昔は二つに結っていたのが短くなっている。印象的な大きな瞳は相変わらず、柔らかな雰囲気も変わらない。あぁ、桃だ。苦しいくらい何かが胸にこみ上げた。
合コンなんて慣れていないのか、ずっと居心地悪そうにしていた桃に吉良が擦りよっていった時にはテーブルをひっくり返したい衝動に駆られたけれど、先に帰ると言って席を立った彼女を兎に角吉良よりも早く追いかけた。
今思えばあの時の行動がなければこうやって桃と結婚できてたかどうかわからない。
そそくさと店を出た桃を呼び止めて、送ると言ったら思いっきり胡散臭そうな顔をされた。 慌てて昔、隣りに住んでた冬獅郎だと説明したら子猫が跳ねたように飛び上がって驚いていた。目を瞬かせ、身振り手振りで驚きと喜びを表現してくれて、少し落ち着けよと吹き出した。立ったままの簡単な近況報告をしあった最後、本当にまた会えて嬉しいと俺の目を見てふわりと笑った桃に俺は完全に射抜かれた。
絶対に逃がさないと強く思った。


だからその日のうちに俺は彼女の連絡先を聞き出して、久しぶりに母さんにも会っていけと自宅にも連れていった。いくら昔馴染みだと言っても、そう簡単に男に警戒心を解かない女はいない。俺は彼女を家に連れていくため、わざわざ母親に電話して声を聞かせてやった。「桃ちゃん久しぶり」とか母親の大音量に桃は若干、仰け反っていたが、これで俺は桃にとって安心な男子になれたのだ。桃を親に会わせることにも成功した。








 
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