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□お役目の話
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*十番隊副隊長








家に置いてきた嫁が気になるから早く帰りたい。

そうノロケた部下がいたけれど、彼はそう口では言いながらあたし達に付き合ってそこそこ長居して帰っていった。口を開けば可愛い嫁の話ばっかで終いには鉄拳制裁を食らわせて無理やり帰らせたんだった。



店の端っこのテーブルで隊長が不味そうに魚をつついている。それほど食べたくないけど所在無さを誤魔化すために箸を動かしているのがありありだ。
聞きたくもない嫁自慢をされるのも苦痛だが、うちの隊長のように退屈そうにされるのも困ったもんだ。まぁ今日は帰りたがっていたところを無理に連れ出しちゃったから多少罪悪感はありますが、それにしたってもう少し和んでくれてもいいようなもんなのに隊長の溜め息の数はこの店に来てから二桁に差しかかる。


なんだかんだと世話焼きで気配り上手な隊長は、今日も子供の面倒を見る母親のごとく細やかな気遣いを忘れなかった。若い女の子の隊員は早めに帰したり暴れ出しそうなやんちゃ坊主は静かに意識を奪ってくれた。因みにそいつは今も隣りの部屋で凍りつい…おねんね中だ。


隊長はきっとそういう性分なんだろう。行き届きすぎる性格ゆえに人の面倒をみてしまう。たぶん本人は気づいていないだろうが誰かの世話を焼いている時、隊長はとても元気だ。不機嫌そうな表情だけど怒鳴ったり文句を言ったりとても元気。その対象が好きな女の子だったりすればキーキーがなりたてながらも最高の動きをするし、甲斐甲斐しい。まさに保護者兼騎士。


その隊長が今夜は大人しい。
みんなは一通り騒いで今は小休止っていうところかしら。和やかな笑い声がする中で隊長はつまらなさ気に白飯を肴に酒を…ってあんたそれは合わないでしょ。
雛森がいない飲み会での隊長はいまいち本領発揮できないみたい。静かでいいっちゃあいいんだけど、寂しそうな姿には罪悪感を感じちゃう。
ここはやっぱりあの子の参上を膳立てましょう。


「じゃ、雛森早く来てね。」


「松本!お前無理やり雛森を…、」


「今日隊長を引っ張ってきたせめてもの罪滅ぼしです。雛森が来ればうちの若いやつらだって喜ぶしいいじゃありませんか。」


「…仕事中の人間を呼びつけて何がいいんだ…。」



「じゃあもう一度電話して断りましょうか?」


「…いーよ、もう…あいつの面倒は俺が見りゃいいんだろ。」



嫌々な雰囲気を醸し出して隊長は緩む頬を精一杯引き締めた。あたしは伝令神機を静かにしまい、ほくそ笑む。物足りないまま帰られるのも後味悪いもんね。何気にあたしの立ち位置も気を使うわ。






さて、可愛いおままごとを見せてもらうとしましょうか。




 
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