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□酔桜
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雛森に聞きたいことは山ほどある。ここまできたらもう覚悟を決める時がきたのだろう。自らが蒔いた種だ、行き着くとこまで行ってやる。日番谷は一度目を閉じて意を決すると再び目を開けた。
男なら潔く。
今一度、唱えてみる。
こんな状況に陥って漸く決心がつくというのも情けないけれど、放置するより数倍マシだ。
日番谷は手に持ったままの回覧を下ろして、ふぅ、と息を吐いた。
本当は誰にも渡したくなかったんだ。
雛森を見守るとか彼女が幸せなら自分はどうなってもいいとか、ただの偽善だ。雛森が他の男を見つめるだなんて考えただけで腸が煮え繰り返るのに。
けれど雛森が日番谷を弟として見ているのなら仕方がないと諦めていた。彼女の望むようにしたかったし傷つけるのも傷つくのも嫌だったから。
でも、あの日の雛森は驚きと戸惑いの色を浮かべてはいたが嫌がってはいなかった、と思う、思いたい。
もしかしたら…
俄かに膨らんだ期待に日番谷はガタン、と勢いよく立ち上がった。
いやいや都合よく考えすぎだろ。
少しは頭を冷やせ、とブルブル振ってみた。
とにかくこのままの状態を続けても埒があかないことだけは解る。だから進むしかないのだけれど、3日前の二人を冷静に思い起こせば希望の光が無いでも無い?
あの日、二人で迎えた朝の雛森は羞恥に染まった顔をしていたが泣いていなかった。怒ってもいなかったし悲しい素振りもなかった。現に今日も避けられるどころか向こうから来てくれたのだ。罵りの言葉も無く、ただ黙って頬を染めていた。
思い起こせば起こすほど期待の風船はどんどん膨らんで確かめたくて、居てもたってもいられなくなる。
「ん?」
そんな日番谷の視界の端に白い物が映った。
机の端っこに薄紅の桜が一枝。窓からの風に吹かれて落ちそうなほど端っこに追いやられている。ほんの掌ほどの短い小枝、朝来た時にはなかったはず。
「雛森……か?」
彼女がさっき置いていったんだろうか?
日番谷はその枝を指で摘まみ上げてじっと見つめた。
衝動だが行動は起こした。でも肝心なことを二人ともまだ何も話していない。
伝えないと。
とてもシンプルで大切なことを。
くる、と指の腹で桜の小枝を回すとはらりと花びらが一枚散った。それは不安定に落ちていき、机の向こう側へ見えなくなった。
あの夜の桜は美しかった。雛森はきっとそれを覚えているのだ。二人の夜のことも。
自分はまだ何も言ってない。
雛森も何も言わない。本当は言いたいのかもしれない。彼女は時々大切なことほど言葉を飲みこむ。
「人のことは言えねぇか…。」
ここまできたら言わないと。もう腹は括ったんだろう?
何よりも単純に彼女に会いたい。もう気持ちは誤魔化せない。
日番谷は雛森が消えた戸に立ち、静かに開けると音もなく姿を消した。
この桜は彼女がくれた切欠なのだ。