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□酔桜
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日番谷が偶然触れた雛森の手はとても温かで。無意識にその温かさを分けて貰うように彼女の手を握っていた。離せなかった。
今ならまだ間に合うと頭の片隅でもう一人の自分が教えてくれたけれど身体は指一本言うことを聞かなくて、ただ顔が歪むだけ。



そんな日番谷を、大きくて澄んだ目が真っ直ぐに見ていた。
誰よりも近い距離、日番谷以外他には何も映さずに。思わずゴクリと喉を鳴らした。





二人きり
近い顔
こんな場面は初めてじゃないはずなのに今夜の酒には媚薬でも仕込まれていたのだろうか。くらりと目が回り、景色が捻れるような錯覚は身体の中から興奮を引き出した。


大切にしてきた関係が壊れる瞬間、雛森は日番谷の目の色が変わったことに何を思っただろう。
失望、恐怖、嫌悪、憤怒。それを思うと泣きたい気持ちがこみ上げる。けれどあの時は雛森のことを思いやるより抑えつけてきた感情が噴き出すほうが強かった。
本当はこんな優しい関係が邪魔だったのだ。雛森が日番谷に家族を求めているからそう自らを位置づけただけ。
そんな心に塗った安っぽい鍍金がバラバラと剥がれ落ちていった。



































澄んだ瞳が疑問の色を浮かべる。その雛森の瞳が怯えないうちに唇を寄せた。突然触れた日番谷の唇に雛森は驚いて目を見開いたけれど悲鳴はあげなかった。あまりの驚きに声が出なかったのかもしれない。でも彼女が叫んでも暴れても日番谷の衝動は抑えられなかっただろう。

雛森が我にかえる前に、早くーーーーーーー追いかけられるように二回目のキスをした。直ぐに離して三回目も四回目も。
ゆっくり彼女を押して畳に倒し、それからはもう身体を波に任せるがまま雛森に手をかけた。




完全に理性が飛んだ状態で、とても優しく扱えたとは思えない。同意もなく酷いことをしているくせに拒絶されるのが恐くて必死になった。
だから雛森が痛みを堪えるためか日番谷にしがみついてきたことが嬉しかった。日番谷の気持ちに応えてくれたわけではないとしても、必要とされたように思えて彼女を抱きしめた。雛森にとっては痛みを少しでも和らげるため、しがみつければ何でもよかったのかもしれないが拒絶の手でないことに喜びがこみ上げた。



朝になり、目覚めた時の二人はかつてないほどよそよそしくて布団の上で互いに裸のまま朝の挨拶をした。雛森は毛布を身体に巻きつけて必死に日番谷から隠してて、焦りまくりなその様子に今更だろと思ったが言えなかった。そんなことを言う心の余裕など日番谷も持てなくて、バタバタと慌てて着替えを済ませ、朝食も取らずに日番谷の部屋を出ていく彼女を茫然としながら見送った。


あれから3日。雛森とは廊下ですれ違ったり遠くで見かけたり、1日1回、必ずどこかで見かけている。彼女の姿を見れば平静でいるのが難しいのに何故こうも自分は雛森を簡単に見つけてしまうんだろう。この体質を恨んでしまいそうだ。
そして今日、あれから初めてまともに話した。一言二言の簡単なやり取りだったが、ちゃんと真正面から雛森を見たのはあの日以来だ。
執務室に入ってきた雛森は日番谷同様、異常に真っ赤な顔をしていた。一瞬、目があうと噴火するんじゃないかと思うくらい真っ赤っ赤で、その顔をみたら何か言わなければと思っていたが何も上手い言葉が出てこなかった。



もう…口下手も大概にしたい。



誰もいない執務室で日番谷は一人悶えるように唸った。






 
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