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□熱の華
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暖かい住まいがある。
食べるものに困ることもない。
隊長という地位もあるし雛森を守る力もある。

今の日番谷に他に望むものは何もない、雛森以外には。
無理矢理彼女を手に入れようとは思わないが他の男にくれてやるつもりもない。誰かが横から手を出そうもんなら容赦なく噛みついてやるが、幼馴染みなんて弱い理由よりももっと明確に強い理由がほしい。
だから本音をいうとあの時の返事が早くほしい。これまでの雛森の態度から否が応でも期待は高まっている。もしかして彼女も、と思わずにはいられない。












「まだ熱があるね。」




布団に横たわる日番谷のそばへ来て、そっと覗きこむようにして雛森が尋ねてきた。
額にあてられた掌が冷たくて気持ちいい。


「何か食べたいものはない?」


「そうだな…。」





だから、1つ仕掛けてみようと思った。こんなこと熱に浮かされた頭でなけりゃ到底できない。

彼女の気持ちを確かめたい。

今までなら想い続けた気持ちが砕け散るのは悲しくて怖かった、でも今はそんな臆病な自分はいない。
きっと熱のせいだ。
彼女の思わせぶりな態度のせいだ。




「水が飲みたい……。」


「お水?わかった「口移しで。」



布団の中から虚ろな目を向けて言った日番谷に、雛森はピタリと動きを止め、見る見る頬を染め上げた。けれど怒るでもなく笑い飛ばすわけでもないのは日番谷が真剣に言っていると受け取ったからだろう。


「雛森……水が飲みたい…。」


まるで駄目押しのように。
弟で幼なじみの頃なら雛森は優しく日番谷に吸い口を向けてくれていた。だが、その優しい壁を日番谷は壊そうとしている。彼女もそれは十分理解していて、さっきまでの笑顔も消えた。代わりに戸惑いの視線を彷徨えせた後、小さく頭を上下させた。



「…うん……。」






身体中の血が燃える。
雛森の背景がぼやけていく。
静かな部屋に雛森の着物が擦れる音だけがした。

日番谷が見つめる前で頬を染めたままの雛森は自らの口に水を含み日番谷を見つめ返す。
日番谷の頭の真ん中がくらくらする。
沸騰寸前にまで熱が上がっていく。はぁ、と口から熱い息が漏れた。




横たわった日番谷に雛森がゆっくりと傾くと、彼女の横髪がはらりと落ちてそれを細い指で耳にかけた。
でもそんな仕草、一点に釘付けの日番谷には関係なかった。
雛森の顔が近づいて、彼女の背景が完全に見えなくなり、









もう、雛森の潤んだ瞳しか見えなくなった。







 
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