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□熱の華
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*原作日雛







熱を出して寝こむなんて何年ぶりだろう。



今ひとつはっきりしない頭で日番谷は自室の天井をぼんやり眺めた。何の変哲もない天井の木目をこんなにも長く見つめることなんて伏せった時くらいだなと思う。
雛森が水の入った桶を取り替えにやってきて「大丈夫?」とそっと声をかけて枕元に膝をつく。仰向けに寝ている日番谷が目だけを動かして彼女へ返事をすると雛森は慈愛の表情で頷いた。熱を持った脳内がどんどん沸いていくように感じるのは単に風邪のせいだけじゃないだろう。


























日番谷は先月雛森に想いを告げた。
言うつもりなど全く無かったのに溜めに溜めこんだ気持ちは日番谷が気を緩めた拍子に隙をついて口から飛び出てしまった。


やっぱり今日みたいに雛森が部屋にやって来ていてかいがいしく日番谷の世話をやいてくれていた。部屋の掃除から食事の用意、忙しさにかまけて普段日番谷が疎かにしている諸々を雛森はせっかくの非番を潰してこなしていく。炬燵に入ってそんな彼女を目で追ってるうちに、雛森のいつもの姉気取りな振る舞いが姉さん女房のように思えてしまった。
あの時の自分の脳は膿んでいたとしか思えない。他に何か考えていればよかったのに、くるくる立ち働く雛森を眺めているうちに、こいつは本当ににいい嫁さんになりそうだと性懲りもなく何度目かの妄想をしてしまった。溜まった洗濯物を抱えて「ゆっくり休んでていいよ」なんて微笑む顔が可愛くてたまらない。姉さん女房っていいよな、とぼんやり頭の中が湯だっていった。
どうしたって雛森の方が年上で日番谷の方が年下なのはしょうがない。たとえ二人の関係が変わったとしても長年培われてきた互いの役回りはきっと変わらないのだろう。恋人になっても結婚しても二人はどこか姉と弟の雰囲気を醸すのだ。だったらそれでもいいかと思った。姉弟のような夫婦など世の中には腐るほどいる。ちゃんと男と女の意識が互いにあれば気にならないものなのだろう。好きなら年にこだわることはない。そう思ったら「雛森を嫁にしたい」と零れ出た。

慌てて口を押さえたが、ポロリと零れた愛の言葉はしっかりと雛森に聞こえたらしく、キョトンとした表情に見開いた瞳がとても痛かった。が、言ってしまったものはしょうがない。日番谷はバリバリと頭をかくと、腹を括って雛森に気持ちを伝えた。彼女に冗談だと笑い飛ばされる前に本気だと知らせなければと言葉を繋いだ。だが、とても一言では言い表せない思いのたけだが肝心なところで口下手な日番谷は、ただずっと好きだったとしか言えなくて。短い言葉が途切れてしまうと後に残った沈黙が身体に刺さるようだった。
でも黙って聞いてくれていた雛森は顔を赤くしながらも頷いてくれたから可笑しな誤解など無く、ちゃんと伝わったのだろう。あれで家族としての親愛の情だと思われては再度挑戦する気も失われるとこだった。
彼女から、まだ返事はもらっていないけれど日番谷の「好き」の気持ちはちゃんと雛森に届いている。なぜなら、あの日以降、雛森の日番谷に向ける表情ががらりと変わったからだ。困った素振りも無く避けられてもいない。以前と同じく十番隊に遊びに来てくれるし明るい態度はそのままだ。ただ、時折、日番谷が見つめているのに気がつくと、ぱっと目を逸らし頬を染める。心なしか瞳に熱を感じるのは自惚れすぎだろうか。
告白前とかなりの違いに日番谷は好感触を感じずにはいられなかった。

















暖かい布団と雨雪を凌げる家、老婆に拾われる前はそれだけでとてつもない幸せを感じたものだが今はそれに優しい言葉と大好きな彼女の笑顔が足されている。こんなの贅沢だろうか。一人ぼっちの頃に比べたら遥かに満たされているのに彼女の全てまでもが欲しいなんて欲張り過ぎか?

まだ返事はもらっていないけれど、けっして嫌われてはいない雛森の態度に幸せ呆けしそうだと思った。








そう、返事はまだなのだ



 
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