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□11月22日
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「……で、こうなったわけか?」
「………はい。」
今日がいい夫婦の日だと知った桃は晩の食卓をあれもこれもと悩んだ挙げ句、見事に統一性の無い夕飯になってしまった。
鰤大根に出し巻き玉子に刺身に、ワインと供に乱菊からもらった生ハムで作ったサラダとチーズ、なぜか野菜炒め等々。和洋中が入り混じったような、迷いがそのまま表されたような食卓に桃は肩をすぼめて小さくなった。
「すげぇ、ごちそうだな。」
「う…、だって今日はいい夫婦の日だって聞いたら、つい何かしなくちゃいけない気になったんだもん。」
流石にやり過ぎたと反省しているのか、桃の眉は下がりっぱなしだ。けれど冬獅郎はそれ以上何も言わず、ただ美味そうじゃないかと言って箸を掴んだ。
「…こんなに……作り過ぎだよね…。ごめんなさい、もったいないことしちゃった……。」
「あ?残さなきゃいいだけだろ?心配すんな、全部平らげてやるよ。」
「でも…。」
せっかく上手くやりくりしているつもりだったのに、チラシの一文に乗せられて無駄遣いをしてしまった。もちろん隊長である日番谷の給金は多いが、だからといって無駄遣いはしたくない。
しゅん、と落ちこむ桃の額にツン、と冬獅郎が人差し指で軽くつついた。
「んな顔するな、今日は俺らがいい夫婦だぜって日なんだろ?早く食おうぜ。」
「シロちゃん…。」
優しく笑ってくれる冬獅郎に暗かった桃の気持ちも何だか晴れて、いい夫婦かはわからないけど、少なくとも桃の旦那様はいい旦那様だと胸が温かくなった。
「じゃ、いただき…、」
「あー!待って待って!先ずはワインで乾杯だよ!」
「天ぷらにワインって…あうかな…。」
「やってみなきゃ分かんないじゃない。」
「まぁ…そうか。」
「そうそう。」
すっかり復活した桃がワインのボトルを手に取り冬獅郎へ口を向ける。それをグラスで受けながら、簡単に機嫌の直った妻に苦笑した。
「こんな日があるなんて知らなかったな。」
「ねー。」
「いい夫婦ってことは仲良し夫婦ってことなのか…。」
「ん?んー、まぁ仲が良くなきゃ良いとは言えないんじゃない?」
「なるほど、じゃあ今夜は風呂もいっしょに入るか。」
「………ばか。」
チン、とぶつかったグラスの向こうでニヤリと笑う冬獅郎。桃の旦那様は奥さまを徹底的に愛してくれるいい旦那様でもあるのだった。