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□220000h感謝小話「色ぬり遊び」
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*日雛





彼女にしては珍しい、真っ赤な口紅。

似合う似合わないというよりも、桃の白い肌に真っ赤な唇が浮かびあがり、存在を強烈に主張している。

ようするになんていうか、いやらしい。



少し色落ちしたそれに、更に上塗りをして桃は仰向けに寝そべっていた俺の足元からにじり寄ってきた。腹の上に置いた本越しに桃の表情が見え隠れする。

赤い線は小さな弧。瞳は秘めた何かで輝いている。彼女の中の小悪魔が起きたのか?
俺はわざと本を読むフリをした。気まぐれ猫の誘惑なんか、てんで興味がないフリを。




足音をたてない猫のようにひっそりと近づいた桃の身体が俺の読んでいた本を強引に倒していく。細い身体をくねらせて俺の身体を覆うように徐々に徐々に這い上がる。てらてらと赤い唇も近づいて、やがてそれはゆっくり俺の頬へと到達した。


まるで無声映画のように音の無いキス。右にも左にも。俺から唇を向けてやればそれは避け、更に身を進めて額にキス。


いったい何がしたいんだか。

突如始まった彼女の悪戯。だけど可愛い悪戯とはけっして言えない。俺に覆い被さった体勢でいるから少し視線をずらせば胸の谷間が簡単に覗けるし、ただでさえ短いスカートは、もうかなりなところまで捲れ上がっている。
恋人間で行われる悪戯はたいていいやらしいもんではあるけれど桃から仕掛けるってのは珍しい。そう思うだけで俺の雄は刺激される。


彼女の艶めかしい表情を見逃さないようじっと見つめていたら、両の瞼にも唇が落とされた。そこで始めて桃が小さな笑い声を漏らす。重なりあった身体から彼女の体温と振動が伝わって、俺の内側の温度を上昇させていく。


俺が黙っているのをいいことに桃は俺の顔中にキスの攻撃。赤い紅が薄れてくれば、また塗り直して再開。赤い唇は肝心な場所を外して隙間なく俺の顔に触れまくる。
当然俺は我慢の限界がくるってもんで。




突如始まった気まぐれ猫の誘惑に、まんまと引っかかるのはかなり癪だ。俺はそんな簡単な男じゃねぇぞ。外じゃ、どんな誘惑にも落ちない男で有名なんだ。
だけど顔中真っ赤にされたお仕置きはしないとな。

というわけで、


「おい……。」


「んー?」


「どういうつもりだ?」


「んふふ、真っかっかにしてあげる。」



誘惑猫のくせにその顔はないだろ。男を誘っている途中であどけなく笑うなんて手をいつ覚えたんだ?

心の乱れを悟られぬようにして、言いたい言葉も飲みこんで、俺は静かに彼女の背後へ手を回す。捕獲の網が張られていくのも知らないで桃はとても楽しそうだ。くすくす笑う振動が重なった部分から俺を揺らす。

ちょ、やめろ。大事な部分を揺らすな。気持ちいいからやめてください。



「…これ落ちねぇだろうが。」


「大丈夫、あとでちゃんと落としてあげるから。」


「誰か来たらどうすんだよ。」


「ちゃんと鍵はかけたもん。」


「なるほど。」


「あっ、まだ動いちゃ駄目…んっ、」




捕獲の網は完璧に張られた。俺は上に乗っかった桃の身体をがっちりホールドして難なく反転する。じたばた暴れる桃を組み敷きながら、そりゃ最後はこうなるだろと言ってやった。もちろんドヤなきめ顔で。悪戯猫に攻められて焦ってたなんて毛ほども見せてたまるか。


「やだ、赤いのがついちゃう、」


「お返しだ。お前にもつけてやるよ。」



身体中にな。一人だけ楽しむなんて許されないだろ。



「待ってまだ最後まで塗れてない、」


「どうせ最後はここだろ。」


「んむー!」


そう言って俺は彼女の色ぬり遊びを終わらせた。


今度はこっちの番だ。
さぁ、真っ赤に染まる準備はいいか?




 
 

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