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□加速の合図
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細道から更に脇道に入れば周りは途端に暗くなる。それまで点在していた街灯の数は極端に少なくなった。急に足場が悪くなるからと冬獅郎は一旦足を緩めて桃を気づかってくれたけれど桃はそれに首を横に振った。


「足痛くねぇか?」
「うん、それは大丈夫だけど…この道を…行くの?」
「近道なんだ。」



言うと冬獅郎は今までと同じようにサッと背中を向けて再び歩きだす。桃が足元の不安定さよりも脇道の暗さに怯んだことには微塵も気がついてないようだ。桃が何かを言う前に冬獅郎はまた手を引っ張って突き進む。後方でどん、と鳴った音に桃が振り向けば、間近に今年最初の花火が上がっていた。前を見れば冬獅郎もそっちを見ていて桃と目が合うと急ぐぞ、ともっと速度をあげた。


「花火綺麗だねぇ。」
「間にあわなかったな。」
「見ながら行けるよ。」
「もっとよく見えるとこがあるんだ。」


タイムリミットが来てしまったことに冬獅郎は悔しげな声を出したが桃は気にならない。冬獅郎がこんなにも必死で桃を特別な場所へと案内してくれている方が花火よりも数倍胸をときめかせる。
煌びやかな照明弾は桃達の行く先を照らしだし、桃が始めに怯んだ気持ちは随分和らいだ。
そして間もなく冬獅郎が着いたぞ、と明るい声を出した。







「わぁ……すごい………!」


脇道から抜け出して、桃達が再びアスファルトの上に立てばまさに絶好の花火スポットがそこにあった。思わず歓声をあげる桃を誘うように冬獅郎がその先へと手を引いてくれた。


 







 
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