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□昔の人
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B桃
あたしはかなりテンパっていた。なぜならあたしの中の日番谷君はまだとても色鮮やかなんだもの。
二年前、別れ方の綺麗も汚いもわからないけど、ただもの凄く悲しかったのは覚えている。今も泣けるほどあたしはまだ彼のことを思っている。
でも今更こんな気持ちを告げられたらきっと迷惑。あたし達はもう二年も前に終わったんだもの。日番谷君には日番谷君の時間が過ぎている。もう新しい彼女がいるかもしれない。
始まらない物語ならこのまま別れた方がいいに決まっている。
そう思ってあたしは懐かしい友人にあったような顔をした。本当はいつでも泣けそうな気持ちをかくして。あたしはあれから少しは嘘が上手くなったんだよ。これは成長でしょう?
間が空くのが怖くてあたしはつまらない話を無駄に続けた。日番谷君は嫌な顔もせずあたしの話を聞いてくれている。
沈黙が怖いのなら、いっそ早く切り上げて別れればいい、そう思うけれど、もう少しだけとあたしの足はこの場所から動かない。
「あ、」
突然鳴った音に日番谷君があたしに短く断りをいれてジーンズから携帯を取り出した。横を向いて相手と話し出した日番谷君の死角でそれまで後ろにいた花太郎が気を利かせてあたしに「先に行ってる」と囁き、あたしはそれに小さく頷いた。
雑踏に消えていく弟に手を振って、あたしは日番谷君の話が終わるのを待つ。 久しぶりに聞いた彼の声を鼓膜に染み込ませるようにじっとして。
「ーーーあぁ近くまで来てる。はぁ?……わかった、じゃあな。」
話し終わった日番谷君はあたしに眉を下げて約束があるからと言った。
「引き止めて悪かったな。」
「ううん、会えて嬉しかったよ。」
本当だよ。元気な姿を見られて良かった。
未練がましい顔をかくしてあたしは彼を見送った。