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□昔の人
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A冬獅郎
びっくりした。
まさかばったり出会うなんて……。
二年間も会うことが無かったのに、とんだ不意打ちだ。せめてもう少し時が経ってから会いたかった。俺の中の彼女が風化するまで会わずにいたかった。でないと得意のポーカーフェイスも自信がない。
「あ……っと、ひ…久しぶり…だね……。」
「あ…あぁ……本当に……。」
「げ、元気だった?まだ大学生だよね?」
「あぁ…も……お前は…?」
「去年短大を卒業して、今は小さい会社のOLだよ。」
無意識に「桃」と呼びかけて「お前」に変えた。彼女はもう俺のものじゃない。自分に強く言い聞かせた。
あの頃と同じ位置にある笑顔を見たら懐かしさなのかなんなのか、大きく胸に湧き上がるものがある。
彼女が少し早口なのは思いがけない再会に緊張しているからだろうか。昔は一つに纏めたお団子頭がトレードマークだったのに、今は短くなった髪を耳に掛けて学生の頃より大人びて見えた。けれど笑ったら昔のままで、俺もつられて何とか笑顔を作ることができた。
「そうか…頑張ってるんだな。」
「要領が悪いから必死だよー。」
「ははは。」
知ってるよ。もし変わってないなら呆れるほど生真面目に仕事をしているんだろう。大変だけど、そんな中でも笑顔を振りまいているんだろ?
何の変哲もない知人同士の会話。俺と桃は別れたからって友達には戻れなかった。
「笑いごとじゃないんだって。」
そう口では言いながら、桃の口調に悲嘆の色はない。うまくやっているんだな、と彼女の笑顔に安心した。
あの時別れたりしなければ、この笑顔はまだ俺の横にあったもの。戻れない時間を思うと胸が痛んだ。
少し大人の様相を漂わせる桃だけど笑うと相変わらず子供みたいだ。いきなりあった俺に戸惑っているのが笑顔の隙間にちらほら見え隠れする。
嘘のつけないやつだと心で告げた。
羨ましいほど素直な桃。ずっとずっと好きだった。ちっぽけな諍いで別れたことを何度悔やんだことだろう。若さ故の意地っ張りなんて百害あって一利なしだ。
こんな唐突に会った場面だけれど、激しい後悔は今もまだ俺の中にあると告げたら、彼女は困るだろうか?
気まずさを交えて話す俺と桃の会話を割ったのはポケットにある携帯の音だった。